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2010年11月20日 (土)

古に眠る炎竜#69(長編連載小説DB)

 今もあの山頂には赤い竜がいる。そのことを、道行く人々は知らない。村人たちや一部の者だけが知っている。
 そうと気がつくと、ふとシリスは吟遊詩人魂がうずくような感覚を覚えた。
 だが、それを口に出そうとしたとき。
「首尾は上手く行ったようだな」
 聞き覚えのある声。
 振り返ると人の流れから抜け出してくるのは、やはりどれも見覚えのある顔に見覚えのある姿だ。
 剣を帯びた青年と赤毛の女、肩にフクロウをのせた黒尽くめのローブ姿。そして、栗色の髪の少年の姿もある。
「みんなのおかげだよ。デュメル博士にも伝えて欲しい」
「オレたちは大したことはしてないさ」
 青年剣士、カナークは筋肉質な肩をすくめて、少し照れたように笑った。
「あれから思ったより経ってるんだよね。普通に過ごしてると、なかなか気がつかないもんだ」
「それだけ懸命に生きているということさ。感心、感心」
 マユラのことばに、聖獣がもったいをつけたような口調で言う。暗いせいか、その姿も今は余り目立たない。
 それ以上に、黒尽くめのシェイドは半ば夜闇に溶け込んでいるようだった。
「セレイン、何か話したいことがあるんじゃないか?」
 その魔術師は何か言いたげにしている少年に目を落とした。
 少年はやっと解放されたかのようにほっとした笑顔を見せ、吟遊詩人に頭を下げた。
「あの、シリスさん……改めて、ありがとうございました」
「どういたしまして。どうだい、その後は」
「まだまだ未熟だけど、博士や皆さんに教えていただいて少しずつ、仕事に慣れてきてます……毎日色んなことを知ることが出来ますし、本当に充実してます!」
 ことば通り、その目は青春の只中にいる者らしく明るく輝いていた。
「セレインなら、きっと一流の考古学者になれるよ」
 世辞ではない。本心からのことばに、少年はさらに嬉しそうに目を輝かせて礼を言った。
 彼らは博士のもとに戻るところらしい。シリスは宴会に誘ったが特にセレインは夜遅くまで寄り道をするわけにもいかず、リンファが懐に忍ばせていたスコーンとクッキーの詰め合わせを土産に渡して見送った。

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