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2010年11月19日 (金)

古に眠る炎竜#68(長編連載小説DB)

「これなら、五百カクラムはするわね」
「リンファ……それに加えて、村人たちからも依頼料をむしりとろうというんじゃ……」
 あきれた目を向ける吟遊詩人に、魔女は肩をすくめた。
「人聞きが悪いわね。拘束時間も長かったし、依頼料に見合っただけの苦労はしたと思わない?」
「確かに大変だったけどねえ。もう、充分な報酬はもらったんじゃない?」
 そのことばに一理あることはリンファもわかっていた。二人が今回の旅で手に入れた物は、竜鱗だけではないのだから。
「でも、受け取れるものは受け取る方が相手にとってもいいことはあるわ。人の好意は素直に受けるものだもの。特に、向こうからやってくる場合はね」
 シリスはようやく、背後から近づいて来る声に気がついた。
 振り向くと、見覚えのある王国の紋章を着けた制服姿がふたつ、走り寄ってくるのが視界に入った。その二人の顔には喜びと安堵の笑みが広がっている。
「とりあえず今夜の宴会は免れないわね」
 町へと戻れば村人たちにも結果は知らされ、そこで歓待を受けることになるのは目に見えている。
 逃げる術もなく、シリスは先ほどのリンファと同じように肩をすくめてみせた。

 王国の観測隊が乗ってきた馬車のひとつでカーマルクに送られたシリスとリンファは、大きな宿に迎え入れられた。伝令魔法で先に報せが行っていたらしく、主役の二人が到着したときには一番大きな部屋ですっかり宴会の準備がなされ、村人たちが集合している。
 警備隊本部からの伝令が国からの報奨金が出ると説明するが、シリスはそれを断ろうとした。龍鱗に加え村人たちからの依頼料、さらに報奨金などを受け取るのはさすがに多過ぎるため、リンファも反対はしない。しかし伝令も困り果て、報奨金を受け取って村人たちの依頼料を断るという案も『それでは気がすまない』という村人たちからの反対を受け、最終的には報奨金を村人たちの生活を守る手当てに回すということで決着がついた。
 そういった長々とした前置きをようやく終えて、宴が始まる。
 料理は宿側が用意したもので、鶏肉、ハムのチーズ巻き、肉団子やキノコの串焼きに一口サンドイッチといった軽く摘めるものから、各種パンやシチューにロールキャベッツのような家庭の味まで、種類も飲み物もさまざまだ。デザートもスコーンにフルーツケーキにプリンやゼリーと、都市の専門店に劣らぬほど鮮やかに見える。
 飲み物も各種用意されており、好物を見つけて上機嫌で食事をする旅人二人に、何人もの村人が礼を言った。一部はそれにかまわず宴そのものを楽しむ者たちもいるが、誰も気にかけはなしない。我が家、故郷の無事を喜ぶ気持ちは皆同じだ。
「感謝される仕事が出来るのって、気持ちのいいことだね」
 シチューを皿に取りながら、シリスはほほ笑みんだ。
「いつもこうだといいわね。今回は実入りも多かったもの」
 ハーブティーを見繕いながら、リンファも笑みを浮かべていた。
 酒を口にしていた者たちにだいぶ酔いが回ってきた頃になると、窓の外はすっかり夜闇に包まれている。
 ふと窓から外を眺めたシリスは、まだ騒がしい宴の会場を静かに出て宿の受付に一言残し、街に出た。
 道行く人々の半数は足を止め、ある方向を見つめている。
「何かあったの?」
 手のひら大のクッキーをトランプのように三枚持ちながら、リンファが背後へと歩み寄ってくる。
「みんな、何を見てるんだろうと思ってたんだけどね」
 行って、周囲の皆と同じように視線を上げる。
 建物と建物の間。
 そこからのぞく闇の彼方に、噴き上がる赤い火花が見えた。まるで光が形作る大きな花のようだ。
「被害がなけりゃ、火山の噴火も花火と変わらんなあ」
 通行人の誰かがそうつぶやくのが聞こえた。滅多に見れないものを目にしたせいか、人々の表情はどこか浮き浮きとしている。
 場合によっては簡単に人の命を奪いかねない高温の溶岩だが、確かに安全な場所で眺めている限りではひとつの芸術のようだ。

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