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2010年11月18日 (木)

古に眠る炎竜#67(長編連載小説DB)

『良くやった』
 大きな硬質の翼が風を巻き起こし、迫り来る熱と溶岩を吹き飛ばす。
 それだけではない。炎竜は山頂から少し低い位置に浮遊したまま二人の前に背中をさらしていた。
「助かる!」
 高所恐怖症の者にとって、同じ高所でもやはり足が着くのとそうでないのとでは大きな差がある。リンファに手を引かれてではあるが、シリスは自ら進んで炎竜の背中に乗った。
 彼らがしっかりと鱗の凹凸にしがみつくなり、竜は風を切って舞い上がる。それを追うように噴き上がった溶岩の噴水も、すぐに姿を捉えきれなくなる。
 明るく燃える空の中、赤い竜は様子を見るようにパラヴィオ山の周囲をぐるりと一周した。
 吹き抜ける風に、雄大な眺め。
 だがシリスにはそれを楽しむ余裕はなく、リンファは風に晒されるのを嫌い、魔法で空気の膜を張って自分の周囲を包み込んでいた。
 やがて、炎竜は山から離れた村の外れの野原へと降り立つ。
「生きた心地がしなかったよ」
 まだ浮遊感を感じているような安定しない足取りで、シリスは竜の背中から飛び降り雑草を踏みつける。
 リンファはどこか優雅さすら伴う仕草でひらりと降りた。
「任務完了、ね」
 その目が山の頂へと向く。
 山頂には火花のようにうごめくまばゆい光や、何かが燃えているような赤い炎が見えるものの、あふれ出るそれはすべて向こう側へと流れているようだ。
『長くて二週間もすれば噴火はおさまるだろう。その間にもこの村に被害が及ぶことはあるまい。とはいえ、人間たちには不安を抱く者もいるだろうが』
「噴火がおさまるまでは避難生活でしょうね」
 仮に村人たちが戻りたいと言ったとしても、すでにことは国にまで通じている。少なくとも噴火が続いている間は簡単には帰れないだろう。
 しかし、村さえ無事ならば帰る場所はある。ただ数週間も待っていれば元の通りの生活に戻ることはできる。
『これでお前たちの役目は終わりだ。わたしとしては、これからが仕事の始まりといったところだがな』
 まるで溜め息でもつくように、大きな顎が揺れた。
「新しい炎竜蓋を作るのね」
 今回の噴火では村を護ることができたが、今後も今回のままとは限らない。何かの要素で山頂付近の地形が変わることも有り得る。今現在と噴火が終わる頃を比べてさえ、大きく変化はするだろう。
 竜は顔を山頂に向け、飛び立つかまえを見せた。
『お前たちには世話になった。これでも持っていけ』
 目だけで見下ろした途端にその胸元でカチリ、と金属が擦れるような音が鳴り、金色の鱗が落ちる。
『報酬、というものだ。これで貸し借りは無しだ』
 大きな翼がはばたき、ゴウ、と風が吹き上げる。
 その眼下の二人が土埃を嫌って顔を覆い、目を開いた頃にはもう、赤い巨体は空高く舞い上がっている。一直線に向かうは、その居場所である山頂だ。
 もう見ていないだろうと思いつつ、シリスは手を振った。
 その横でリンファは鱗を両手で拾い上げ、かざして見ている。

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