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2010年11月14日 (日)

古に眠る炎竜#66(長編連載小説DB)

『悲劇の戦場に散りし 破壊のしもべたちよ――』
 流れるように、凛とした張りのある声が呪文を紡ぐ。彼女が本来持つ魔力がその古代語に導かれて強く引き出され、破壊の力となって収束していく。
『その怒りと嘆きを持て
 愚かなる魂に我が裁きを下さん
 緋き力よ 古の契約に従い
 我が手に集いて 断罪の鎌となれ』
 はっきりと形を現わしたその力にリンファは方向性を与えてやる。狙うは、村とは逆方向の炎竜蓋と山肌の一部。強力な攻撃魔法でも歯が立たなかった炎竜蓋に、果たしてどこまで通用するのか。
 かすかな心配を含んだ目で眺めるシリスの視界に、その目と同色の光が満ちた。
「〈スートディザスタ〉!」
 限界を超え収束した光は、その名を呼ばれたのを合図に弾ける。空間がひしゃげるような音を立て、光の中に内包していた標的を正確に圧し潰す。
 山肌はえぐられ、炎竜蓋の端にも亀裂が入ったかと思うとその一部が砕け散って落下していく。
 赤い光は消え、見事に標的のみを消し去り――
「……え?」
 目的は達せられた。
 そう確信してほっとしたのも束の間、シリスは下から巨大なものが突き上げてくるような振動を感じる。
 すべて成功に終わった。だが魔法による衝撃が作用したのかたまたまこの瞬間なのか、噴火はすぐそこまで迫っていた。
 熱風が、今人工的に作られたばかりの噴火口から噴き出す。
「〈ボムフィスト〉!」
「〈ワールウィンド〉!」
 リンファとシリスの声が重なり、二人は風の魔法で焼かれそうな熱を背後へと吹き散らしながら走る。
「シリス、目を瞑ってなさい!」
「ええっ!」
 腕を抱えられ、シリスは情けない声を上げながらも言う通りにする。この瞬間に他に方法は思いつかない。リンファは飛行用の魔法を使い逃れるつもりなのだ。
 背後に急激な気温の上昇を感じながら、二人は崖まで走る。後ろからのまばゆい光をまぶたを通して感じ、思わず振り返って目を開けて見た吟遊詩人の目に、あふれ出す火花のような溶岩の飛沫が映った。
「〈ボムフィスト〉!」
 ほんの一滴でも撃ちもらし被っただけで、大火傷は免れない。とっさの一撃で文字通り降りかかる火の粉を払う。
 しかし、一瞬だけ散らしたところで間に合いそうにない。火傷を覚悟しながら再び目を閉じて走り続ける。
 途端、強い風が吹きつけて脚を掬われかけ、転びそうになった。

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