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2010年8月 8日 (日)

古に眠る炎竜#65(長編連載小説DB)

 前に登ってから一ヶ月も経っていないが、山道の様子は大きく変わっていた。草の疎らな地面はひび割れ、ところどころに崩れた崖の一部が散っている。
 それだけならまだしも、山肌から細く灰を巻き込んだ蒸気が噴出している部分が数ヶ所あり、触れれば大火傷を負うであろうそれをよけて歩かなければならなかった。風向きによっては視界が塞がれ、シリスが魔法で風を操り吹き散らしながら進む。
 さまざまな障害物を前にしながらも多くを魔法で解決して、二人はそれほど時間を取られることもなく山頂に至る。
『来たか』
 竜は二人が来るのを知っていたように、真っ直ぐ目を向けていた。
 その後方で噴煙が立ち上っている。その出口は不自然に岩の壁で覆われていた。炎竜ができるかぎり噴煙が広がらず直線状に昇るようにと手を尽くしたのだろう。
「様子はどう?」
 熱気に顔をしかめながらリンファが歩み出る。
『見ての通りだ。山の外郭が外からの圧力に耐え切れなくなりつつある。わざと何ヶ所か穴を開けて圧力を薄めてあるが、それでも大規模な爆発は避けられぬだろう』
 橙色の目がわずかに山肌へ向いた後、改めて自分の数分の一しかない大きさの姿を見下ろす。
『わざわざ様子を見に来たわけではないだろう。力を手に入れたのだな?』
 もうすでにわかりきったことを、念のために確かめるという口調だった。
「どうにかね。有効かどうかは、使ってみなきゃわからないけど」
「あそこまでやってハズレはないさ。威力は充分だと思うよ。問題は……」
 使い慣れない魔法を上手く扱えるかどうかだ。
 シリスもリンファの腕は信頼している。だから普通に魔法を発動し威力を発揮することに関しては心配していない。問題は、魔法の効果範囲や威力が想定した以上だった場合だ。体感的にその魔法を使ったことがなければ、わからない部分もある。
「そうね……さすがに、この山ごと全部吹っ飛ばすほど強力ではないと思うの。でも、念のため炎竜さんは離れて、シリスは魔力障壁を張っていて」
 広範囲攻撃魔法でも、術者の間近にいる者は大抵被害を受けることはない。だが攻撃する対象が自分たちの足場となれば、二次被害的を受ける可能性もある。
『今さら他に方法もあるまい。お前たちの力、信じてみよう』
 風が巻き起こった。
 巨大な翼を羽ばたき、赤い巨体が浮き上がる。まるでその大きな身体に重さがないかのように、ふわり、と竜の姿が天上に吸い込まれていく。
 シリスは呪文を唱え、魔法の結界を張った。強力な攻撃魔法相手には心もとない防御壁であるが、直撃さえしなければ充分な強度は持っている。
 リンファはそちらを一度ちらりと見やり、視線を戻すと集中するように目を閉じて深呼吸する。
 気を散らさぬように吟遊詩人は口を開かず、物音を立てぬように気をつけながら一部始終を見守る。
 目を開くと、リンファの声が高らかに古代語の呪文を紡いだ。

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