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2010年7月29日 (木)

古に眠る炎竜#63(長編連載小説DB)

 船は旅人たちを乗せて港を離れ、夜闇から果たしてどんな障害が飛び出すか、という乗員の心配をよそに、無風の海を滞りなく渡りきったのだった。
 島を離れ、旅人二人はオカラシア大陸の上で一夜を過ごす。
 やがて陽が昇り、少しずつ暖かさが風にはらまれていく。
 いつも旅をしている南方大陸からかけ離れた場所であっても、昇る太陽と二つの月は同じだ。身を起こしながら、シリスはそう実感していた。
 目を開けるとすぐ近くに大きな金属の塊がある。しっかりと扉と窓を閉じた飛行艦だ。丘の上から周囲を睥睨するオブジェのようにも見える。
 場所は、ジェシュ共和国カンドリア郊外。パガーラと行き違いになっては急いでここまで来た意味がないと、シリスとリンファは宿を取らずに飛行艦のそばで野宿したのだった。
 強行軍の後に野宿は身体にこたえるが、それも慣れた二人にはさほど苦にはならない。それに、夜のうちにパガーラが泊まる宿を捜して回る苦労を考えれば野宿の方がよほど楽なものだ、という結論だった。
「今のうちに買い物に出ようかしら。どちらかが待っていれば行き違いもないでしょう」
「じゃあ、オレが」
 即座に申し出たシリスが素早くカンドリアへ向かい、朝食を含めた買出しを行う。パガーラと鉢合わせすることを少し期待したが、それは果たせなかった。
 しかし、必ずパガーラは飛行艦に戻ってくるのだ。二人が串焼きとチーズ入り丸パンで朝食を終えた頃には、ひとつの姿が街道を外れて向かってくるのを目にすることができた。
「これはこれは、ずいぶんと仕事の早いものだな」
 感心しているともあきれているとも取れるようなことばに、言われた方は満足げな笑顔を返した。
 軽い調整を終えて乗員を乗せた飛行艦が飛び立つと、その旅路に障害など現われなくなる。帝国の領土と空を飛ぶ魔物の巣があるような山を避けていれば、空はもっとも安全な道に違いない。
 それでも高所恐怖症の者にとってはできれば避けたい道ではあったが、今は他に手段がないと重々承知している。
 外を見ないように気をつけながら吟遊詩人が思うことは高所にいることへの恐怖よりも、すでに噴火していたなどという事態にならないように、という祈りだった。

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