« 古に眠る炎竜#51(長編連載小説DB) | トップページ | 古に眠る炎竜#53(長編連載小説DB) »

2009年1月12日 (月)

古に眠る炎竜#52(長編連載小説DB)

 海賊船は魔法で牽引され、ノースランドのファルガス港という小さな港に到着した。この港の船も襲ったことがあるらしい海賊たちは身を縮こまらせて穴の空いた船から降りる。さすがに、沖にいるうちに旗は隠されていた。それでも何となく雰囲気は察しているのか、遠巻きに眺める漁港関係者の視線は厳しい。
 その中で、体格のいい黒目黒髪の海賊の男が二人の旅人たちの前にひざまずくと、警戒する相手の前で頭を下げた。
「すまねえ、旅の人たち! この恩は忘れねえ。あんたたちは命の恩人だ。船も壊れたし大した礼もできねえが、何でも言ってくれ。できるだけのことはする」
「そう言われても……」
 相手は海賊だ。その被害を受けた者たちの目もある場所で礼を言われるというのもばつが悪い。
 シリスは少し迷い、海賊たちの顔を見回した。数人の海賊が行方不明となっていたが、助かった者たちは怪我の手当ても大方終わり、ことの成り行きを見守っている。
 吟遊詩人が降り注ぐ雪が入らぬようにコートの襟を立てながら困ったように肩をすくめていると、エーゼルが埠頭につないだ漁船上から声を上げた。
「漁師としては、安全に漁ができればそれにこしたことはないんだけどな」
 もっともな意見だった。しかし、海賊が海賊をやめるというのは相当なことではないだろうか。
 そう考える旅人たちだが、海賊のまとめ役らしき男は、覚悟を決めたようにうなずいた。
「わかった……これからは、ジェシュとノースランドの船には手を出さねえ。オレたちは、これから西に行く。帝国の船だけ襲ってりゃ、誰も文句は言わねえだろ」
「そういうものなの……?」
 北方大陸の内情を良く知らないシリスは怪訝そうに言うが、漁港の者たちも納得顔だった。
「そういうものなんだ。あいつら、自分たちの国のためだけに兵器やその材料をかき集めてやがる。それを奪った方が周りの国も多少は安心できるし、兵器もその辺に回したほうが釣り合いが取れるってものさ」
 何となく釈然としないながら、シリスは納得することにした。地元の者たちでなければ判断が下せないことというのもあるだろう。
「オレはオピスって言うんだ。また会うことがあったら、何でも力になるぜ」
 そう言い残して、海賊たちは船に戻っていった。漁港の者たちも協力するつもりになったらしく、早速修理を始める様子だ。
 シリスとリンファは、帰還準備をしているエーゼルに礼を述べた。
「いやいや、礼を言うのはこっちの方だ。これで安心して漁ができる。また何かあったら声をかけてくれよ。オレは早くこのことをうちの港の連中に知らせてやらんとならんから帰りは送れないが、この港の連中でもあんたたちの頼みを嫌がる者はいないだろうよ。それじゃあ、元気でな」
「エーゼルさんもね」
 かまどに新しい石炭をくべると、第五鳳凰丸は慌しく小さな港を出て行った。

|

« 古に眠る炎竜#51(長編連載小説DB) | トップページ | 古に眠る炎竜#53(長編連載小説DB) »

『古に眠る炎竜』3」カテゴリの記事