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2009年1月 6日 (火)

古に眠る炎竜#51(長編連載小説DB)

 シーサーペントの口から海水が噴き出した。シーサーペントの攻撃のひとつに、毒液を混ぜた海水を吐き出すというものがあることを、シリスもリンファも知っている。
「〈ワールウィンド〉!」
 旋風を起こす魔法を盾代わりにし、海水を吹き散らす。
 続けて呪文を唱え、シーサーペントの眼前に灰色の球体を出現させる。
「〈シェイブウィンド〉!」
 灰色の球体から無数の風の刃が撃ち出される。普通の魔物相手なら原型を留めないほど切り刻まれ細切れにされるような魔法だが、シーサーペントの皮膚は風の刃の威力も緩和するのか、浅く表面を斬るだけに終わる。
 それでも、金属のような白銀の表面にいくつも赤い線が刻まれ、見た目には今まで以上の有効打を与えたように見える。
 行けるかもしれない――と、エーゼルや海賊たちの目が輝く。
 だが、刻まれた痛みに唸り声を上げて激しく頭を振り、力任せに氷を砕いて空高く立ち昇る姿を見上げると、威圧感に再び首をすくめる。
「〈フレアブラスト〉」
 リンファが再び、赤い光線を放った。傷口を狙っての一撃だったが、シーサーペントは長い胴体を揺らし狙いが逸れる。
 的確な攻撃をするにはもっと近づかなければならない。あるいは、相手にもっと近づかせるか。
「〈ライトニング〉」
 シリスは愛槍を掲げ、それに魔法をかけた。彼の封魔槍デウスは、魔法をひとつだけ封じておくことができる。
「〈ヘイルストーム〉」
 相手へ向かう道を作ろうというのか。リンファが海面を凍りつかせる。
 しかし、その完成を待つまでもなく、シーサーペントは自ら頭を打ち下ろしてきた。頭上高くから一気に落下してくる凶暴な形相に、海賊たちは小さく悲鳴を上げる。
 そのまま動けない彼らの視界の中で、敵と同時に、シリスだけが大きく動いた。迫り来るシーサーペントへと駆け出しながら、槍をしっかりと両手にかまえる。
「〈エアボミング〉!」
 白銀の大きな頭が叩きつけられようとする寸前を見計らい、爆風を起こして相手の勢いを殺す。
 船の先から氷の道へと飛び降りると、シリスはシーサーペントの傷ついた首の辺りに狙いを定めた。漁船に向かう頭の下に潜り込み、下から傷口を狙う。
「〈エアボミング〉」
 リンファが逃げるボンスとエーゼルの前に立ち、魔法で牙をむき出しに襲い掛かる敵の頭を弾く。
 敵の動きが止まったそのわずかな瞬間に、シリスは的確に狙える一点を見出した。
「はっ!」
 渾身の力を込め、両手で槍を突き上げる。ほとんどは上手く避ける位置ではあったものの、シーサーペントの傷口から青い血が噴き出して彼の顔に点をこぼした。
 だが、それにかまっている余裕はない。痛みから逃れようと身をよじろうとする大蛇の力に引きずられそうになりながら、素早く力を解放する。
「デウスよ!」
 名を呼ばれた封魔槍が、その内に封じられていた電撃をほとばしらせた。いくら皮膚が硬いとしても、シーサーペントも生物である以上、身体の中までは丈夫ではいられないようだ。
 跳ね飛ばされないように素早く槍を抜き、シリスは漁船に引き返す。
「船長、もう少し離れて!」
 リンファとボンスに引っ張り上げられる間にも、彼はそう叫んでエーゼルに船を動かさせる。
 シーサーペントは断末魔の声を上げて暴れ回った。あちこちで水しぶきが上がり、強い波が起きて船を揺らす。
 漁船は充分に距離をとるが、海賊船には大きな波が直撃する。しかし、充分な大きさがある海賊船は波には強い。シーサーペントの尾でも叩きつけられればひとたまりもないが、それはリンファの防御結界で防がれていた。
 被害は抑えられるとしても、長々と暴れさせるわけにもいかない。シリスが呪文を唱え、少しでも敵を道連れにしようというかのようにのたうちもがく大蛇に風系魔法の中でも最上位のものを放つ。
「〈ダウンバースト〉!」
 上空からの渦巻く風を叩きつける魔法だ。風の吹きすさぶ轟音とともに、大蛇が海面の下へ押し付けられ、その周囲に大輪の水の花を咲かせた。生じた波が漁船と海賊船を大きく揺らす。
 逃れようと身をくねらせて唸るものの、全体が海面下に沈むと力尽きたように動きを止めて沈んでいった。
 巨体の影が完全に見えなくなり波がおさまると、どこからか声が上がる。
「た、助かった……」
 確かめるようにそうつぶやいた声を最初の一声として。
「生きてる……」
「助かったぞー!」
「奇跡だ……」
 海賊船の船室に隠れていた者たちも姿を現わし、久々に晴天を眺めた囚人のように天を仰いで歓喜する。
 脅威から逃れた海賊たちが襲いかかって来るのではないかと警戒し、いつでも呪歌で眠らせられるように竪琴をかまえていたが、どうやら、襲撃される可能性はなさそうだった。

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