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2008年12月20日 (土)

古に眠る炎竜#48(長編連載小説DB)

 炎は再び勢い良く燃え盛り始め、メモリも赤い方へと長くのびていく。
「これで島まで持ちそうね」
 白い山が段々と近づいてくる。その向こう側の海には、氷の切れ端のような白いものが無数、浮かんでいるのが見えた。それらはやけに強い波に揺らされている。氷山の辺りを中心に波紋のような波が起きているのだ。
 そして、何か板切れのようなものがこちら側に流れてきていた。シリスは流氷かと思いながら眺めるが、近づくにつれ、それは板にうつ伏せになった人間の背中だとわかる。
「エーゼルさん、あれ!」
「わかっとる!」
 第四鳳凰丸は船首を漂流者に向けた。船の起こす波で煽らぬよう、少しずつ速度を落としてそばに停止する。
「おーい、大丈夫か!」
 エーゼルが操舵室を出て声をかけるが、男はピクリとも動かない。わずかに見える肌は雪のように白くなっていた。
 彼がロープ付きの浮き輪を投げる前に、リンファは呪文を唱えていた。
「〈フライイング〉」
 うつ伏せの男の姿が見えない何かに引っ張られたようにして浮き上がる。エーゼルは目を丸くするが、すぐにタオルと毛布を用意した。
 黒目黒髪の、エーゼルとそう変わらない年齢の男だった。そのままタオルと毛布にくるまれ、かまどの前に横たえられる。
「大丈夫、息はある。体温がかなり下がっているみたいだけど」
 脈を取っていたシリスが安堵の声を上げる。外傷もなく、気を失っているだけのようだ。
 リンファが魔法を使い、男の周囲を温かな空気で包み込む。体温を上げるには、一方向からのかまどの熱だけでは不充分だと判断したのだろう。
「それにしても、なんで流されてたんだか……見ない顔だから、ノースランドの漁師かねえ」
 とりあえず、男の命は魔法使いに任せていれば大丈夫だろうと判断したのか。エーゼルは首をひねる。
「この男が乗ってきた板は、船の物のようだったわ。きっと、船が何かの拍子に壊れて流されたんでしょうね」
「この人の他にも流された人がいないといいけれど」
「漁船は、そう大人数で乗るものじゃないもの。それにしても、こんな遠くまで流されてくるなんて」
「そりゃ、おかしいな」
 リンファのことばをエーゼルが何気なく継いだ。旅人たちに視線を向けられ、彼は少し怯んだように肩をすくめる。
「いや、それがよ、ノースランドはあの気候だから滅多に船での漁はしないんだ。それも、こんな沖合いまでは来ない。あっちじゃ主流は網か釣りか、海鳥漁だからな」
 海鳥漁については、旅人たちもカンドリアで少し耳に挟んでいた。頭のいい、漁をする鳥を使い、その大きなクチバシの中に袋を引っ掛けてエサの魚を取ってこさせるのだ。代わりに、人間はエサの分け前と安全な住処を提供するのである。
「じゃあ、港から落ちた……とか?」
「本人に聞いてみた方が早いわ」
 少しずつ、漂流してきた男は顔色を取り戻していた。船長は船を港に引き返すか迷っていたが、どうやらそこまでしなくても済みそうだ。
 しかしこのまま停止していては、海賊にとって格好の獲物になりかねない。第四鳳凰丸は再びノースランドに向けて動き出した。

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