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2008年12月15日 (月)

古に眠る炎竜#46(長編連載小説DB)

「それでも、どうしても渡らないといけない理由があって……船を借りてでも渡るつもりです。用事を済ませたらすぐに戻って来るつもりなんですが」
 素直に応じると、店主は少し考え込む素振りを見せ、
「それなら、知り合いの船主を紹介しよう。そこなら簡単に船を借りられるし、もし船を出してくれる者がいれば連絡してくれます。それと、ここにある防寒具は一週間貸し出しもできますよ」
 悩む客たちに、そう提案した。
 貸し出しなら、定価の半額以下で済むらしい。当然それを承諾し、船主への紹介状を書いてもらう。
 購入した防寒具を早速着込んで、二人は船主のいる港に足を向けた。
 街中は少々肌寒い程度だが、北からの冷たい潮風を受ける港はさすがに寒い。シリスは茶色の厚手のコート、リンファはファーのついた白いコートを着込み、二人ともコートについた帽子を被った。雪は降っていないが、周囲の視線をある程度遮断できる。
 コートに加え、厚手の手袋や毛布も何枚か借りていた。途中の店でいくらか道具も買い、あとは北の島に渡る船を探すだけだ。
「魚を獲る船も出てないんだね」
 港は閑散としていた。船はほとんどすべて埠頭にくくりつけられたままらしく、人の姿はない。
 ただ、いくつか海に突き出た先端にある小屋からは、人のいる気配が感じられた。
「エーゼルさんは一番右だったわね」
 紹介状を見下ろし、二人は冷たい風を感じながら港を歩いた。海の向こうの空には相変わらず暗雲が立ち込めている。
 寂しげで暗い雰囲気だが、小屋に近づくと、聞こえてきたのは陽気な声だった。
「すみません。エーゼルさんはこちらですか?」
 「ああ、エーゼルはオレだ」
 即座に威勢のいい声が返ってくる。誰かが内側からドアを開け、中の様子があきらかになる。
 船乗りらしい男たちが輪になって網を補修していた。屋内は風がないとはいえ決して温かそうではないが、皆半袖だった。鍛えられた浅黒い腕が見えている。
 帽子を被っているとはいえ、近くでじっくり眺めればその奥の顔立ちを見てとれる。漁師たちは開け放たれたドアの向こうに注目すると、驚嘆した様子で目を見開く。
「これは驚いた。雪の精が舞い降りたか」
 意外に詩的なことを言う相手に、リンファが帽子を下ろして歩み寄る。
「雪のように触れても消えはしないわ……あなたに頼みがあるの」
 紹介状を渡し、彼女は単刀直入に説明する。相手も、もったいぶった言い回しを好む人種ではない。
 しかし話を聞いたエーゼルは、渋い顔をする。
「船を貸せと言われれば貸さないこともないが……この状況で船頭やるヤツはいないだろう。みんな勇敢な連中だが、家族もいる」
「それでもいいの。船頭がいなくても船は動かせるし」
「二人だけで行こうっていうのか?」
 少し驚き、漁師は二人の旅人を頼りなげに見る。
「これでも、長年旅をしてきたんだ。盗賊の出る山道なんかも通ったし、もっと危険な場所にだって行ったことはある。それに、魔法で船を守っておけばいい」
 シリスが相手と視線を合わせて言うと、また相手はギョッとしたように目をむいた。
「魔法、魔法か……」
 複雑な感情の込められた声を聞き、シリスは思い出す。
 ナーサラ大陸の町では日常的に聞く『魔法』や『魔物』といった単語も、この大陸ではとても異質なものなのだ。多くの人々はそれを目にすることなく一生を終えていく。
 そういう人々が魔法を、その使い手を前にするとどういう感想をもつか。神の奇跡のように崇めるか、脅威として恐れるか、そのどちらかではないだろうか。
 シリスは不安を抱きながら、エーゼルの表情を見守った。
 彼の心配をよそに、エーゼルは膝を叩いた。
「おもしろい。一度魔法ってのを見てみたかったんだ。オレが出よう」
「大丈夫なのかい、旦那?」
 周囲の心配を、エーゼルは「そう簡単に死なねえよ」と一笑にふした。

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