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2008年12月10日 (水)

古に眠る炎竜#44(長編連載小説DB)

「それで、カンドリアに着いたらどうするんだい? そのまま船で直行ともいかないだろうし、一泊するんだろう?」
 思い出したようにパガーラが問うた。
「ええ。カンドリアで一泊して、パミルに行く船を見つけようと思います」
 シリスの予想通りのことばにうなずき、探険家は振り向いた。
「わたしもカンドリアに泊まることにするよ。明後日まで泊まって、次の朝にカールスメアに帰る。間に合えば声を掛けてくれ」
 シリスとリンファの二人は、帰りは船と馬車を使って帰るつもりでいた。時間的にはそれでもどうにか間に合う距離である。
 しかし、パガーラもどうせ飛行艦で帰るのだから、客人を乗せようが乗せまいが同じことだ。
 とはいえ、二日で行って帰ってこれるのかは微妙なところだった。
「戻ってこなかったら、遠慮なく帰っていいからね」
「最短なら間に合うかもしれないけれど、こういうのは、最悪の行程を予想するのが普通ですものね」
 海賊が荒らし回っているなら、ノースランドへの船を探すのにも時間がかかるかもしれない。海賊が出ずに順調にノースランドに渡れたとしても、天候次第ではパミルにしばらく滞在することになる。
「天気もいいといいんだけどね」
 というシリスの願いをよそに、飛行艦がカンドリア西の小さな丘の上に降り立ったとき、海の向こうの北の空には分厚い雲がかかっていた。

 旅人たちは早朝から船を探すために宿は選り好みせず、通りの一番近いものを選んだ。〈宿・カンドリアパイポ〉という白い看板がかけられた小さな民宿だ。
 建物の素材からして人工物が多く、ナーサラ大陸の多くの宿にはない調度品や設備が目に付く。時計に水道、レバーを押すごとに湯が出る手動シャワーなどだ。
 わずかな間眺めた街並みの雰囲気も、普段は南方大陸で旅をすることの多いシリスらには、遠くへ来た実感を与えていた。
「何だか、ちょっと心細くなるね」
 幸い、この宿の構造の方はナーサラ大陸のものとはそう変わりないらしい。一階の食堂で夕食をとりながら、シリスは居心地が悪い様子で座りなおす。
「そうかしら。通貨やことばが通じないわけでもないし、気にすることないと思うけど」
 リンファはメニューを眺めながら、食後のハーブティーを選んでいた。いつもながら、彼女のたたずまいは悠々としている。
「それはそうだけれどね。異国の雰囲気を感じるのも好きだけど、一気に遠くまで来たせいかな」
 ナーサラ大陸ならともかく、こちらには友人知人がほとんどいない。それが心細さの原因だとシリスは自覚していた。何かあっても、他人に頼るということはできない。
 それでも、食べ物の好みや料理が劇的に変わるということはないのが救いだった。どの店でも見かけるシチューやオムライス、サンドイッチといった料理に、定食や地元料理の名が続く。
 旅の醍醐味には地元の味というのも大きな割合を占めるが、当たり外れが大きいというのが一長一短である。
 少し悩んで、シリスは名物料理の鶏肉と小魚のパイ包みを頼んだ。リンファは煮魚定食とハーブティーに決める。港町だけあって、魚を使った料理が多い。
「この辺りはまだそれほどでもないけど、ノースランドはじっとはしていられないほど寒いらしいわね。明日は、船を探すだけじゃなくて防寒対策もしないと」
「じゃあ、分かれて動こうか」
「ずいぶん嫌そうね。一人じゃ心もとないのかしら?」
「単独行動しているときに限って、色々と嫌なことが起きたりってこともあるからねえ」
 からかうような視線を向けられて、吟遊詩人は否定も肯定もせず苦笑しながらそう言った。

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