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2008年12月 8日 (月)

古に眠る炎竜#43(長編連載小説DB)

 いくらかの食糧と機材、そして二人の乗員を新たに乗せて、翌朝、カールスメアの郊外から飛行艦は飛び立った。ナーサラ大陸南方のこの周辺には時折強い風が吹くが、天候も良く、何の問題もなく飛行艦は大空へと舞い上がった。
 揺れもなく、窓は小さく覗こうと思わなければ下など見えない。そのことにシリスは安心し、窓の下に座り込んでこの空の旅を過ごすことにした。
 この飛行艦はもともと三人乗りらしいが、軍用だったものを改修したためか少々狭い。
「残るは三週間ほど。これで一日でオカラシア大陸の北端に行けるなら、充分間に合いそうだね」
「そう上手くいくかしら」
 向かいに座るリンファが溜め息交じりに声を上げた。
「フリーズ・シーを越えるのも、パミルへの道も、そこからの道も大変よ……まずは、北端の町で準備をしないといけないわね」
「それからは海賊か……」
「それは、行ってみなければわからないな」
 正面にある四角い窓や操作卓のメーターを見ながら、操縦席のパガーラが口を挟んだ。
 飛行艦はジェシュ共和国の方へと進路を取っていた。近年不穏な動きをする隣国のラスゲイン帝国へ警戒を強めているガベラート王国の上空を渡るのは、事前に伝令を飛ばした上でもいらない不審を煽るかもしれない。もちろん、この飛行艦に刻印されていた帝国の紋章などとうに塗り潰され、人畜無害なイルカの絵が描かれているが。
 その問題が回避された以上、当面の問題はやはり海賊だ。どの程度の被害が出ているのかも、さすがにナーサラ大陸までは聞こえてこない。
「ま、いざとなれば船ごと沈めるだけだわ」
 さらりと暴力的なことを言って、魔女はこの話題を打ち切った。
 飛行艦は低い駆動音を立てながら、空を北へと進んでいく。シリスは途中で降りて休憩するのかと予想していたが、降りることなく飛び続けた。一度降りて停止すると、また飛び立つまで準備に時間がかかるのだという。
 丸一日ほども操縦桿を握っているのはかなり疲れるだろうが、パガーラによれば、直進するだけなら操縦桿を固定すればそれでいいらしい。
「まあ、もう少ししてオカラシア大陸に入ればそうも行かなくなるだろうがね。まだ情勢は危機的じゃあないが、念のためにね」
「まさか、帝国でも刺激してしまえばことだものね」
 オカラシア大陸北西の大国ラスゲイン帝国では、日常的に飛行艦が飛んでいるという。その飛行艦にでも見つけられたら、自分たちが危険なばかりかいらぬ紛争を引き起こすことになりかねない。だからこそ、やや遠回りはあっても東に進路を取ったのだった。
「そこはパガーラさんを信頼するよ。オレたちはあとは待つだけさ」
 とはいえ、ただ待っているのは退屈というものだ。シリスは竪琴を抱え、退屈な時間を歌って過ごすことにした。
 飛行艦は山が多く何が起こるかわからない未開地区を避け、内陸に進路を取ってパンジーヒア王国の北端からオーラル内海へ出た。窓から見下ろせば青々とした水面が見えただろうが、三人ともそれを眺めようとはしなかった。シリスは当然ながら、リンファも興味を示さず、パガーラの方は見飽きているのだろう。
 数時間ほどで北方大陸のコロナド自治領上空に入る。そろそろ昼にさしかかる頃合となり、カールスメアから持ち込んだ昼食が振舞われた。
 エルカコムから輸入された砂ウナギの肉をジャングルの植物の葉で包んであぶったものや、港町から運ばれてきた魚を干したもの、これもジャングル製の赤いひょうたん型の果物に地元産の豆のスープなど、セルフォンには劣るが、カールスメアも相当食材に恵まれているようだ。
「これ、おいしいわね。何ていう果物なの?」
 リンファは、ひょうたん型で頭頂部に舌のような皮が突き出している果物のその皮をむきながら、白い中身を口にしていた。
「ジャングルで採れるコプロの実だな。地元の連中は魔王の舌、と呼んでる」
 操縦桿に向かいながらパガーラが答える。
「魔王の舌がこんなに甘いなら、さぞ魔王本体も甘いんでしょうね」
「喰えない人たちかもしれないよ。まあ、実物を目にすることはもうないかもしれないけど」
 この世界で魔王と言えば、消魔大戦で活躍した四大魔王のことだ。多くは魔界に封印されたとされている。
「今は、生きてる人間の方が怖いね」
 パガーラが苦笑を交えて言った。
 それでも、文明の進んだ北方大陸にあっても、東方は人々の営みもナーサラ大陸とそれほど変わりないほど穏やかなようだ。鉄道や上下水道、機械化の進んだ工場などはあるものの、一般市民の生活では、移動もまだほとんどは馬や馬車、それもなければ徒歩だし、伝達機器も役所にひとつ、というところがほとんどだ。
 オカラシア大陸東方を縦断するような大河に沿って北上し、夕暮れを迎える頃には、飛行艦はディアント王国から目的地のあるジェシュ共和国に入ろうとしていた。

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