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2008年12月 6日 (土)

古に眠る炎竜#42(長編連載小説DB)

「買い被り過ぎと言うものだろう、それは」
 彼は茶色く汚れた紙を取り出すと、羽根ペンを手に取って何かを書きつけていく。
 そのとき、ドアが開けられた。
 何でもないことのようだが、パガーラは少し驚いてしまう。何せ、この店に彼以外の来客があるところなど見たことがないのだ。
 ただ、彼はクレビンスが外出しているところも見たことはない。出不精のこの青年でも普段の生活はあるはずで、見ていない間に出入りがあるのかもしれない。
 しかし、ドアを開けて入ってきた者たちは明らかに食糧や生活用具を売る商人には見えなかった。パガーラは人が入ってきたことに驚いた直後、その入ってきた姿を見てまた驚く。
「ここにパガーラさんという人が、良く来てるって聞いたのだけど」
 そう声をかけてきたのは、今まで目にしたことのない美女だった。それも、ただの美しさではない。冴え冴えと目の醒めるような、理知的な美だった。
 その背後に見える姿は、吟遊詩人らしい美青年。
 まるで神話の中に出てくる精霊か神々のような姿は、ものの美醜というものに無関心な考古学者の心も動かした。
「うらやましいな、パガーラ。いつの間にそんな美女と知り合ったのかね」
「はて、覚えがないが……わたしに何か用かね」
 パガーラが向き直ると、二人の訪問者は交渉相手が誰なのかを知り、店の奥に歩み寄ってくる。
「ここで出会えてよかったわ……あなたに頼みたいことがあるの。あなたの飛行艦を移動に使わせてくれないかしら。もちろん、相応の報酬は払う」
 相手のことばに、パガーラは少し唸った。ここ最近はあちこちを飛び回っていて、しばらくゆっくりしようと思っていたところなのだ。長らく飛んでいると飛行艦にも負担がかかるので、点検と修理にも取り掛かろうという予定だった。
 その様子から断られると感じたのか、吟遊詩人が前に出る。
「急ぎの用事なんだ。できるだけ早くオカラシア大陸に行って、用事を済ませてこなきゃあならない。できるだけ、ノースランドのパミルに近い場所に行きたいんだ」
 それは、かなりの長距離だった。飛行艦ならば二日もあれば行ける距離だが、吹雪くことの多いノースランドには簡単には降りられない。
 パミルへの移動手段はせいぜい、ガベラート王国の北の港町アドリアス付近、もしくはジェシュ共和国のカンドリアに着陸して、船で渡るくらいだ。それも海賊が出るなど、順調に行くのかは難しい経路だ。
 それをあえて行こうと言うのだから、この旅人たちにそれなりの事情があるということは理解できる。
「行ってやりな」
 クレビンスが珍しく、他人のことに口を出した。
「パミルなどに用事があるとしたら、それは古代遺物がらみだろう。遺物のひとつも手土産にしてくれたら……いや、そうでなくても、話を聞かせてくれればいい。わたしがパガーラを雇おう」
 この申し出に、旅人たちは少し驚いたようだった。
「確かに、未解明の遺跡がらみではあるけど……古代の遺産が発掘されるような場所じゃないわよ」
「それでもいい。遺跡の年代や分布がわかるだけでも、今後の遺跡捜索や過去の文明の推理に有用な情報となる」
 クレビンスは乗り気なようだ。しかし、最終的に結論を下すのは、飛行艦の所有者でありパイロットのパガーラである。
「頼めるかしら?」
 リンファがふたたび、腕を組んで考えながら会話を聞いていた相手に目を向けた。
 パガーラは作業服の肩をすくめる。
「ああ、いいだろう。飛行艦には少々無理をさせるかもしれないが、オカラシア大陸の北端付近までなら乗せていけるよ」
「ありがとう」
 美女の、少しだけ緊張したようだった顔がほほ笑みに変わった。
「わたしはリンファ。こちらはシリス。旅の魔術師と吟遊詩人よ」
 世にも美しい二人組の旅人たちはそう簡単に自己紹介をして、今一度店内の二人に礼を言った。

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