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2008年12月 5日 (金)

古に眠る炎竜#41(長編連載小説DB)

  第三章 風光る道


 土埃が舞う商店街を、ラクダに牽かれた馬車が通り過ぎていく。荷台には、水がめがいくつか乗せられていた。
 商店街に出ている店の多くは露店だが、衣料や食べ物を売る店は風よけのテントの内側に商品を並べている。普段からだいぶ風が強く、しかも埃っぽいらしい。家々は土を固めたようなレンガで造られたものが多く、窓はこの大陸では少々値が張るはずのガラスがはめられ、さらに透明な膜を外から張られている。隙間から土埃が入らぬようにとの配慮だろう。
 砂漠越えの準備をする旅人たちや、砂漠やジャングルでだけ採れる鉱石や植物などが目当ての貿易商などで店も賑わい、道行く旅装姿も多い。
 そんな中で、白髪に白髭の作業服の男が早足で人込みを縫っていた。それなりに歳を重ねていると見えるが、動きはよどみなく背筋もしゃんとしている。
「おお、パガーラさん。今回はどこに行ってきたんだい?」
 荷物を運ぶ途中と見える男が、荷台に箱を載せながら声をかけてきた。
 パガーラと呼ばれた作業服の老年の男が、作業服にたくさんついたポケットのうちのひとつから、青緑の果物を取り出して知り合いの男に投げてよこした。
「割と近場だよ。ラメイク北の農村に贈り物を届けてな、礼に珍しい果物を沢山もらったというわけさ」
「へえ」
 ラメイクといえば、ここアリューゼ自治領らとともに中央四国と呼ばれる四つの国々のひとつ、エアンセ公国の首都だ。農業の盛んな国ゆえに、農村も多い。
 そんなことを思い出しながら受け取った果物にかじりついた男は、その余りの渋さに果汁の多い果肉を吐き出した。
「そのまま食べるのには適さないから、漬物にして食べるんだそうだ」
「それを早く言え!」
 文句を言う男に向けてしてやったり、の笑みを残し、パガーラは先を急ぐ。
 目的地は、彼にとって『いつもの場所』だった。それは街外れにぽつんとある、民家にしては少々大きなレンガ造りの家である。
 建物には、土埃がこびりついて少々識別しにくくなっている、一冊の本が描かれた小さな看板が吊るされていた。
 滅多に客が訪れることのない古本屋。ここが三大考古学者の一人とすら言われる青年の住処だと知っている者は少ない。その少ない者の中に、パガーラは含まれていた。
 彼は建物の中に入ると、外とは違った埃っぽさに少しむせそうになる。外に比べて涼しいのは快適だが、薄暗い雰囲気は慣れない者には不気味にすら思えるだろう。
 壁際からその内側まで、いくつもの本棚が並ぶ。奥には机が並び、その上には本の山ができていた。
 それらの本の山の向こうに、本に埋もれるようにして一人の青年が突っ伏していた。
「おーい、生きてるか」
 机に身をのり出してパガーラが声をかけると、ボサボサの長い黒髪の青年はわずかに身じろぎをしてから、顔を上げて身体を伸ばす。
「ふあ……ああ……あなたか」
「あなたかじゃないだろう。ほら、頼まれてたものだぞ」
 あきれ声で言い、ポケットからほぼ四角形の黒い石を取り出す。石の表面には、共通語とは異なる言語の文章がびっしりと書き連ねられていた。
 それを見ると、青年の黒目が鋭く輝く。
「読めるか?」
「そう思うがね」
 石を受け取って肩をすくめる青年に、パガーラも同じように肩をすくめた。
「天下の考古学者、クレビンスさまがわからないって言うんなら、誰にもわからないと思うがねえ」
 目はしっかりと石の文字列を追いながら、若い考古学者は白い顔に、小さく笑みを浮かべた。

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