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2006年11月19日 (日)

古に眠る炎竜#40(長編連載小説DB)

 まばらに草が生えているとはいえ、この辺りはまだ、乾いた土地だった。ジャングルに近い辺りはむっとするような暑さがあるが、北上するにつれ熱は冷め、ひび割れた土にいくらか緑が加わった荒野が続く。大地が草原に変わるには、カールスメアよりさらに北へ向かわなければならなかった。
 そのカールスメアを首都とするアリューゼ自治領に入り、シリスは地図を広げて見た。背後にジャングルが見えなくなった辺りが検問もない国境だが、その位置から次の目的地であるパミルの西までの距離は、気が遠くなるほど長い。
「それで、リンファ……本当に、間に合う方法があるのかい?」
 風に舞い上げられた、砂埃とは違う乾いた細かな土の埃に咳き込んでから、吟遊詩人が唯一の同行者に問う。
 カールスメアに希望があるかどうか、シリスは半信半疑だったが、ほかに手段がない以上、彼はどうにせよ、もうリンファの考えに従うしかない。
「運が悪ければ、もうしばらく時間がかかるでしょうけれど……運が良ければ、すぐにも行けるはず。あなた、カールスメアの考古学者の話は知ってるかしら?」
「カールスメアの考古学者って、クレビンス師かい?」
 クレビンスは、デュメル博士、セディン博士に並ぶ、三大考古学者の中の一人だ。よほど事情にうとい者ならともかく、考古学に関する知識も必要な旅人や探険家ならずとも、多くの人々に知られている話だった。
 しかし、早足で歩きながら、リンファは首を振る。
「確かに、関係はあるけれどもね……彼自身より、彼の友人の探険家の話よ。五年ほど前だったかしら……山で昔墜落した帝国の飛行艦を発見した探険家が、自力で修理してそれを自分の物にしたの」
 北のオカラシア大陸に国土をかまえるラスゲイン帝国は、超科学文明の遺産のひとつである飛行艦を使い、何度かここナーサラ大陸の国々に侵攻していた。それが失敗に終わったとき、いくつかの飛行艦は魔法で撃墜された。
 ほとんどは、ナーサラ大陸の技術では再生不可能ほどに破壊されたが、人里離れた山には修理可能な物が残されていたのだろう。
「その探険家、よく移動に飛行艦を使っているみたいよ」
 ここまできて、ようやくシリスもリンファの言う移動手段に気がつき、足を止めた。
「あ……まさか、ノースランドまで、その飛行艦に乗って……?」
「そうよ。パミルまでは無理かもしれないけれど、一日もあればオカラシア大陸の北方の町にでも着けると思うの……あなた、下さえ見えなければ大丈夫でしょう?」
「それは、そうだけれど……」
 高所恐怖症とはいえ外さえ見えなければ高い塔にでも登れるが、空飛ぶ乗り物になど、乗ったことはなかった。シリスの顔に、不安の色がよぎる。
「少しの間なんだから、嫌でも我慢することね」
 苦笑して、リンファが歩き出す。仕方なさそうに、シリスもそれを追った。
 間もなく、二人の前に、地平線の彼方から、レンガ造りの街並みが姿を見せ始めた。

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