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2006年10月11日 (水)

古に眠る炎竜#36(長編連載小説DB)

 その、少し後。シリスは、冷たい牢の中にいた。
 荷物、竪琴も、当然武器も、すべて奪われている。特殊な繊維で編まれた愛用のマントも取られ、酷く寒い。
 ――あの子たちも、こんな寒さの中でどうしているかなあ。
 こうして自分が牢の中にいることと引き換えに、彼らは飢えをしのいだ。それが自己満足だと知りながら、シリスは少年たちのことを考え、心を慰める。
 警備隊員は、シリスを牢に入れて以降、姿を見せなかった。牢は尋問を行う部屋とつながっていて、部屋の小さな窓からは、夕日が洩れている。
「……寒い」
 誰もいない部屋で、身体をさすりながら、声を出してつぶやく。
 陽が落ちて夜が深くなるにつれ、いっそう空気は冷えていった。さらに、冷たい石の壁と床に触れた部分から、体温を奪われる。じっとしていると眠気に襲われるが、そのたびに、頭の隅でこの寒さの中で眠っては命取りだという警鐘が鳴り響く。
 せめて楽器があれば、と考えたところで、彼はふと、思いついた。
 楽器などなくとも、吟遊詩人は歌えるのだ。どうせ、ここで大声を出したところで、誰にも迷惑はかかるまい。
 むしろ聞く者のいないことが悔やまれるような歌声が、暗く冷たい空間に流れ始める。

 夢幻さえ触れられない
 虚しい闇をさまよい続けた
 標も手を取る者もなく
 一人転びながら探し続けた

 今は見つけた銀糸の絆
 月明かりもほのかに照らし
 しずく散る花も祝福する
 この道の先に待っていたもの

 はかないから強くつかみ取る
 もう放さない大切なもの
 白い階段を駆けあがる
 ふたつの心に翼を生やして

 数百年も前の、北方大陸の有名な童謡作詞家が作った歌だった。彼は孤児で、この『階段からの歌』も、自分の幼い頃を思い描いて書いたものだと言われている。
 歌い終えると、だいぶ、身体が温まっている。このまま、一晩歌い続けるくらいわけがなかった。
 次は何にしようかと、少し楽しい気分になりながら、天井を見上げる。
「あれ……?」
 同じ石の天井ではあるが、それはあきらかに、牢のものとは変わっていた。

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