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2006年8月14日 (月)

古に眠る炎竜#34(長編連載小説DB)

「ほう……こりゃ凄い。宝石も飾り物も値打ち物だが、この金貨が一番凄いよ」
 男は、奇妙な模様の入った、大きな金貨を指さした。そらされていたリンファの目が、鋭く、男の指と、その先を眺める。
「こりゃあ、ガネイン金貨さ。三〇種類の模様があって、コレクターの間じゃ、かなりの高値でやり取りされる。オレの知り合いに、丁度、この模様を集めてるやつがいるんだよ」
「……そう」
 ガネイン金貨のことは、初めて聞いた。この試練の中だけに存在する物なのか、それとも、現実に存在する物なのかも、判断のしようがなかった。
 無関心を装うリンファに、男は、愛想笑いを浮かべて歩み寄る。
「なあ、お嬢ちゃん……一枚くらい、無くなってもわかんねえだろ。ちゃんと金は払う。三〇〇でどうだ?」
 少しだけ、心惹かれる。
 だが、それもほんの少しの間の、ほんの少しの揺らぎだ。
「……そんなに欲しいなら、持ち主が戻ってくるのを待っていたらいいじゃないの」
 喉のひりつきのせいで、声がしわがれたようになった。
 それに気がついた男が、ラクダのもとに歩み寄る。
「いや、オレもすぐにカールスメアめざして発たなきゃならないんだ……お嬢さん、それじゃ、三二〇とこれひとつ追加じゃ、どうだい?」
 そう言って男が差し出したのは、ラクダの腹の横に吊るされていた、あの、水袋だった。まだ半分以上入っているらしく、たぷたぷと音が鳴った。
 その水で喉を潤すときの快感が、精緻に想像できる。リンファは、それができる自分が憎かった。
「……残念ね。縁があればまた巡り会えるでしょう」
 喉はひりつき、身体がどれだけ水を欲していても、衰弱していたとしても、彼女の頭脳だけは、よどみなく動く。彼女は、これが試練であることを忘れない。
「そうかい。本当に残念だよ……まあ、すっぱりあきらめよう」
 男は肩をすくめて、ラクダに戻る。
 水が遠くへ行ってしまうのに、リンファはほっとした。心を乱す物が視界から消えると、目を閉ざし、ひたすら時間が経つのを待とうとする。
 不意に、喉の渇きが消えた。
 精神を集中しているとはいえ、五感が完全に消えることはない。不思議に思って目を開けるなり、彼女の視界を、白い光が包み込んだ。

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