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2006年5月20日 (土)

古に眠る炎竜#30(長編連載小説DB)

 稜線の向こうに、青い湖がゆらゆらと揺らいで見えた。砂漠にもいくつかオアシスが点在していると言われているが、正確な場所は伝えられていない。
 シリスは、蜃気楼か、と肩を落としながら、もう一度、コンパスと地図を確かめる。地図を逆さに開いて首を傾げてから、しばらくしてようやく間違いに気づき、持ち直した。
「そろそろのはずだね」
 砂の山から周囲を見下ろし、半信半疑で、辺りを見渡す。
 変わらず、赤茶色の稜線が連なっているだけだった。どこにも試練の場となりそうな建物など見当たらない。
「確かに、この辺りらしいけれど……」
 水筒に入れてきた、冷えたハーブティーで喉を潤し、リンファも疑うような目を灼熱の大地に走らせる。
 見ているだけでは、どうしようもない。シリスはコンパスをポーチに入れ、地図を巻いてベルトに挟めると、背負っていた槍を右手に、坂を駆け下りる。
 もしかしたら、砂の下に扉でも埋もれているのかもしれない。槍の穂先を砂の中に突き立て、探ってみる。
 手応えは軽かった。金属や岩のような、硬い物に当たることもない。
 それどころか、シリスは、槍を握る右手に、抵抗が軽くなっていくのを感じた。それはまるで、そこにあったはずの物が崩れ去っていくような――
「え……?」
 足もとが揺らぐのを感じて、顔を上げる。
 後ずさろうとするが、身体を後ろに動かすために踏ん張る足の裏に、地面がない。抵抗のしようがなかった。
「シリス!」
 砂漠のある一点に飲み込まれていく砂の流れに、逆らうことができない。リンファがシリスの手にする槍の端に手を伸ばし、引っ張ろうとするが、すぐに彼女も流れに飲まれる。
 赤茶色の砂が生き物のように渦を巻く。
「まさか、試練の場って……」
 腰まで砂に飲まれ、身動きのできない状態で、何とか地面に手をついて抵抗しながら、シリスは嫌な想像を膨らませる。
 リンファは、覚悟を決めたようだった。
「身を任せるほかないでしょう」
 帽子を胸に抱き、砂による被害が最低限に抑えられるよう姿勢を整える。
「アリジゴクがいないことを祈るよ」
 砂の表面は熱いが、ある程度下のほうに埋もれた砂は、肌に気持ちがいいほど冷たい。ただ、汗をかいた肌にまとわりつくのが気持ち悪かった。
 あきらめて目を閉じ、わずかな間の狭苦しさに耐えるうちに、周囲の景色は一変する。
 砂が少しは衝撃をやわらげたものの、どこかに落下した拍子に、シリスは、腰をしたたか打った。
「いたた……身体中、砂だらけだよ……」
「戻ったら、水浴びするくらいの時間は欲しいわね」
 立ち上がり、服のしわや髪にまとわりつく砂を払うと、リンファはすぐに、薄暗い周囲を見回した。
 岩の地面に、岩の壁。奥には、神殿らしい建物が四角い出入口を開けている。

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