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2006年4月25日 (火)

古に眠る炎竜#29(長編連載小説DB)

 船を降りた二人がまず向かったのは、布を広げただけの露店がひしめく市場だ。そこには、帽子専門店も店をかまえている。
 リンファの見立てで、白い安物の帽子を二つ買う。
「話には聞いていたし、北のほうには何度か行ったことがあるけど……」
 帽子を被り、シリスは太陽のあると思われる方向に顔を向ける。だが、とても太陽そのものは直視できない。
 足を飲み込もうとする赤茶色の砂が、歩くことによる疲労を増す。さらに、逃げ場のない暑さが、黙っていても体力を奪っていく。
「長居するだけ疲れるわ。次の試練の場へ急ぎましょう」
 この国では、一食分のパンよりも、一杯の水のほうが数倍高い。リンファは船に乗る前に、この国で必要な分の水を用意していた。
 もうすでに喉が渇いているのを我慢して、シリスはうなずいた。
 コンパスで方位を確かめ、地図に記した砂漠の真ん中をめざし、二人は、砂の海へと歩き始めた。
 一歩一歩、踏み出す足が重い。
 ナブロが見えなくなると、同じ場所をひたすら歩いている錯覚を抱くような、茶色の稜線がひたすら続く。
 歩くのをやめても、陽は容赦なく照りつける。焼けた砂は熱く、座ることもできない。
 休むのもままならず、二人は歩き続けた。
「ナブロからは……そんなに、遠くなかったはずだよね」
 砂丘の頂点で立ち止まり、シリスはコンパスを確かめた。
「余り水を飲まないでいると、脱水症状を起こすわよ」
 あとに続くリンファが、竹筒を利用した、自作の水筒をシリスに押し付ける。
 額の汗を拭い、吟遊詩人は水筒を受け取って、一口だけすすった。喉の渇きは癒えないが、水は最低限の消費に抑えるべきだという理性で、身体の要求を抑え込む。
 普段は余り汗をかかないほうだというのに、二人の旅人たちは、たびたび汗が目に入るのを邪魔に思うくらいだった。
「ラクダを借りてくるべきだったかな……」
「きちんとラクダでナブロに戻れる保証があればいいけれど、難しいわね。砂漠の真ん中に、まともな試練の場があるとは思えないもの」
 再び、歩き始めて間もなく、エルカコム名物とも言える古い建物、ピラミッドが遠くに見える。
 それを横目に、二人はさらに北へ。

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