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2006年4月10日 (月)

古に眠る炎竜#23

 遮る岩を時折魔法で吹き飛ばしながら、二人は、慎重に歩く。
「フラドさーん!」
 何度も立ち止まり、シリスが吟遊詩人家業で鍛えられた声で、呼びかける。
 しかし、答は返らない。
「一体、どこまで登ったのかしら?」
「目的がわかれば、ある程度予想できるんだけど……」
 フラドの友人エレーナの話では、彼はしばらく前から、何か悩んでいる様子だったという。普段は気の優しい、どちらかと言えば臆病なほうで、最近母を亡くして父が町に出稼ぎに出て行ったエレーナをよく励まし、彼女の相談にのっていた。
 よほどの理由がなければ、危険な、立ち入り禁止の山道になど入らないだろう。
「とにかく、主とやらに会ってみるしかないか……」
 曇り空を見上げ、そこにめり込むような峰に溜め息を吐いてから、彼は歩みを再開する。
 少し歩いて、少し休む、というのを繰り返す。その間にも、シリスは、下を見ないように努めていた。
 休憩中の、
「魔法でさっと飛んでいければ楽だと思うの」
 というリンファの意見に、彼は首を振る。
「いや、それは危険だよ……高くなると、風も強いし。リンファ一人で先に行ってもらうわけにもいかないし」
「あら、一緒に来てくれるんじゃないの?」
「い、意地悪言わないでよ」
 水筒からカップに茶を注いで手渡しながらのリンファのことばに、シリスは少し青ざめた顔を見せた。
「そんなことしたら、どうなるか……知っているでしょ。墜落するのが目に見えてるよ」
 自分の弱点をよく理解しているシリスは、長い息を吐いてうなだれた。
「冗談よ。それじゃあ、人捜しにはならないものね」
 本当に冗談なのかどうかわからない口調で言って、魔女は自分のカップに注いだハーブティーをすする。
 それを、向かい合うような位置の岩に座ったシリスが、怪しむような目で眺める。
 背後には雲が広がり、その下には枯れ木と灰と岩にまみれた山肌という、灰色の世界。そこにあってすら、否、その光景がいっそう、魔女の美しさに磨きをかけているようにも見える。
 だが、神秘的な赤の目が向かう先は、魔女の手にするカップのほうだ。
「このお茶って、さっきお店で出されたものと同じだね。初めての味だと思うけど……気に入ったの?」
「ええ、分けてもらったの。火山付近の、特別な土の上にしか生えないハーブを使った物らしいわ」
「本当に、ハーブティーが好きだね」
 ほのかに鼻に抜けるような清涼感のある液体を持ち上げてみながら、吟遊詩人は、少しつまらなそうに言う。
 リンファには、その様子がどこかおもしろかったらしい。
「あなたのココア好きと同じようなものよ。そっちのほうが、もっと種類も少ないでしょうに。お店でココアが出なかったから、不貞腐れてるの?」
「べつに、毎日ココア飲まないと気がすまないわけじゃないよ」
 明後日の方向に目をやりながら、不貞腐れたようにハーブティーを飲み干す。

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