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2006年4月 8日 (土)

古に眠る炎竜#21

  第二章 太陽の踊る地

 遠くの陸の影が、波間に揺れて見えた。
 風の魔法石を動力部に積んだ高速船は、パンジーヒア王国の紋章を描いた帆に風を受けながら、陸地に向かって海上を滑る。
 甲板で、熱のこもった潮風を受けながら、シリスは竪琴を左腕に抱え、弦を弾く。
 特別に出航を許された高速船に、ほかの乗客はいない。聞く者のないことが悔やまれるような美しいメロディーが、船上を流れた。
「あと、一時間もあれば着くそうよ」
 船員に話を聞いてきたのか、船首にしつらえられた女神像もかくやという美女が、涼しげな姿を見せた。
「ああ。急がないと……」
「そればかり言ってるわね」
 無表情のまま、しかしリンファは軽く肩をすくめて言った。
 彼女の同行者の吟遊詩人は、普段はどちらかと言えばのんびりしていて、せかされるのを嫌うほうだった。
 それが、今は誰よりも急いでいる。事情を知らぬ者は、それを不可解に思うくらいに。
 だが、事情を知っているリンファにとっては、無理もないことに思えた。
 吟遊詩人シリスに、魔術師のリンファ。二人は、このセルティスト界〈フォース〉を何年もの間、旅していた。旅先で頼まれごとをされることも珍しくはない。
 しかし、カーマルクの西にある谷間の村での頼まれごとは、それまで何度も受けてきたような依頼とは違っていた。
「地図にも載っていないような町や村は何度も見てきたけど……こんなところにも、人が住んでいるとはね」
 緑の木々やツタが垂れ下がる岸壁を見上げ、前方に視線を戻して、リンファはあきれたような声を洩らした。
 その前を歩きながら、シリスは何も言わず、苦笑する。
 岸壁に囲まれたところに、小さな村が見えた。滝から滴る流れが、村を横断してもう一方に流れている。
 石と木で組み立てられた家々は、特に他の村と変わっているようには思えなかった。目を引くのは、その村の背後にそびえる、煙を噴く山だ。
 村の名は地図には載っていないが、その山の名は、『パラヴィオ山』と刻まれていた。
「今にも噴火しそうな勢いね」
「最近、地震も増えているそうだし……ここの人たちは、避難しないのかな?」
 村に踏み込んだシリスは、心配を表情に出して周囲を見回した。

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