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2006年1月30日 (月)

古に眠る炎竜#20

 皆の顔を見て、シリスも仕方なさそうに息を吐く。
「ええ、ちゃんと戻って来ますから……それまで、みんなも元気で」
 別れのことばを口にして、歩き出す。
「じゃあ、またな」
「それじゃあね」
 再会の約束を信じて、カーマルクの考古学者たちも、軽い調子で別れを告げた。
 旅人たちは、歩き出す。南の、パストナ王国との国境のそばに位置する港町、グレパスへ向かって。
 砂を舞い上がらせ、乾いた風が、街から去りゆく二つの姿を覆い隠す。
 長い間見送っていたカーマルクの民も、やがて、強い風に追い立てられるようにして、街の中へ帰っていった
 カーマルクの南には、いくつかの町や村がある。そのうちのどこかで馬車を借りることにして、シリスとリンファは、束の間の間だけ、のんびり歩くことにした。
「ところで、あなたは、どんな試練を受けたの? やっぱり、氷の世界かしら?」
 カーマルクが緑の地平線に消えてから、リンファが、遺跡からずっと気になっていたことを尋ねた。
 彼女のことばに、シリスは不思議そうな顔をする。
「え……オレが見たのは、砂の岩山の世界だよ。あれは、オレにとってはとても恐ろしい試練だったなあ……」
「あら、どんな試練だったの?」
「それはその、色々と……」
 顔を下に向けて吟遊詩人はことばを濁すが、リンファには、大体想像がつく。
「……そういうリンファは、どんな試練を受けたんだい?」
 反撃のつもりか、シリスは訊き返す。
 しかし、魔女が美しい顔に浮かべたのは、余裕のほほ笑みだ。
「一度目の試練は、死の危険をも拭う勇気。つまり、死の危険を冒してまで、自分の信念をつらぬくことができるかどうか」
「死の危険なんて、いつものことだけど……」
「実際はともかく、死に対するような恐怖を乗り越えることができるかどうか、ね。それができたから、わたしたちは試練を果たした。わたしは、氷の世界で、ちゃんと大切なものを守れたわ」
 彼女がほほ笑むと、シリスも、にっこり笑う。
「それなら、オレだって、ちゃんと信念に従って試練を越えられたって事だよね」
「そういうこと」
 リンファのことばで、笑顔を取り戻したものの、もう一度同じ状況になっても動けないだろうな、とシリスは思う。
 残る試練は、『自らを律する自制心』、そして『絶望に打ち勝つ希望』だ。
 エルカコムの大地の上にも続く空を見上げながら、二人は、歩き続けた。


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