« 古に眠る炎竜#17 | トップページ | 古に眠る炎竜#19 »

2006年1月27日 (金)

古に眠る炎竜#18

「ここに、次の試練があるってことかな?」
 シリスは、常に持ち歩いている紙の地図を広げ、光の点が打たれている場所に目印を描いた。
 点が輝くのは、砂漠の真ん中。ナーサラ大陸南東に位置する灼熱の地、エルカコムの砂漠のなかだ。
「だいぶ遠いな……」
 シェイドが、わずかに顔をしかめる。
 パンジーヒア王国からエルカコムまでは、多くの国や山を越えなければならない。馬車でも、片道一週間以上はかかる。
 果たして、一ヶ月以内に帰って来られるのだろうか。
「急がなきゃいけないのに……あと二つも、試練があるのか」
 間に合わないかもしれない。シリスの顔に、かすかな不安がよぎる。
「まあ、そう思いつめるな」
 デュメル博士が、吟遊詩人の背中を強く叩いた。
 転びそうになるシリスに、博士は笑みを向ける。
「エルカコムの砂漠に行くなら、船で行ったほうが早い。南のグレパスの町には、セントメフィアの王族御用達の高速船がある。わしも色々付き合いがあるからな。紹介状を書いてやろう」
 突然伸ばされた救いの手に、シリスは、目を見開いて驚く。
 やがて、彼は喜びを満面の笑みにして表わし、博士の手を取った。
「ありがとうございます、博士。この恩は、いずれお返しします」
「そうかそうか。それじゃあ、いずれは色々と研究させてもらえるのかのう」
 博士の満足げなことばに、感動していたシリスが再び転びかける。
「そ、それはまあ、そのうち……」
「では、そのうち来てくれるのだね。待っているよ」
 吟遊詩人は博士が忘れてくれることを祈ったが、望みは薄いようだ。
 すでに、役目を終えたためか。シリスと博士が話している間、シェイドやマユラが観察している目の前で、球体は消えていく。
 周囲に充満していた魔力が、煙のように消えうせた。新たな挑戦者がここを訪れるまで、試練の働きも、眠りにつくのだろう。
 遠くで、大きなものが引きずられるような音がした。
「出口が開いた……みたいね」
 もう、ここに用はない。
 少し名残惜しそうな顔をする考古学者たちをよそに、魔女は出口を目ざして歩き出す。
 その相棒も、時間は惜しかった。急いでリンファを追うシリスに、シェイドとその同僚たち、博士とセレインも続く。
「そういえば……」
 通路を歩き出して間もなく、何かを思い出したように、シリスは後ろの顔ぶれを振り返った。
「セレインは、何か用事があったんじゃなかったのかい?」
 急に尋ねられ、少年は、大きな目を丸くする。
 やがて、その顔に、本人も忘れていたらしい、彼の目的を記憶のそこから呼び起こしたのが見て取れる。
「そうです……ぼくは、その……どうしても、博士の弟子にしてほしくて」
「弟子に?」
 博士が、細い目を見開いて少年を見た。
 やがて、その顔は、穏やかな喜びの笑顔になる。
「それは、大歓迎だよ! こんなに勉強熱心な弟子が来てくれるなら、こちらとしても大助かりというものだ。何せ、うちはシェイドはともかく、頭より手が出る連中が多いからのう」
 後ろに続くカナークとマユラが苦笑するが、セレインは、思わず博士に飛びついた。
 デュメル博士は、無邪気に喜ぶ孫のような少年を、同じく嬉しそうに受け止める。
「よろしく頼むよ、セレイン」
 フクロウに似た聖獣を肩に乗せた黒衣の魔術師が、ほほ笑みを浮かべて歓喜の様子を見守る。
 先を行く二人の旅人も、ひとときだけ急ぎの旅路を忘れ、相好を崩した。

|

« 古に眠る炎竜#17 | トップページ | 古に眠る炎竜#19 »

『古に眠る炎竜』1」カテゴリの記事