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2006年1月24日 (火)

古に眠る炎竜#15

 柱のように突き出た黄土色の岩山に、旅の商人風の男がしがみついていた。男はシリスを見て、声を張り上げる。
「頼む、助けてくれ!」
 彼がしがみついている岩山に向かって、細い断崖の道が、まるで橋のように続いていた。サーカスの綱渡りほどではないが、簡単に渡りきれるほど幅はない。
 一歩、そちらに足を踏み出してみて、シリスは怯んだ。道の脇から見える下の景色をチラッと目にしただけで、その顔が血の気を失う。
「何してるんだ、早く助けて!」
「あの、オレはその、高いところはちょっと……」
「見殺しにする気かー!」
 男の怒声を受けて、シリスは泣き言を言いながら恐る恐る、一歩踏み出す。
「行きます、行くしかないんでしょう、ええ、わかってますよ……」
 勇気を持って、さらに一歩、細い道に足をかける。
 再び下の景色が視界に入った途端、シリスは目眩を感じて、慌てて頭を振る。
「下を見るな、前だけを見て走れ! 常にちゃんと足の裏を地面に付けていれば、そう簡単に落ちはしない!」
「は、はい……」
 なぜか助けられる側に励まされながら、覚悟を決める。
 早くしなければ、商人らしい男の手が断崖のふちから離れ、落下してしまうかもしれない。そんな光景は見たくない、急がなければ――
 助けたい一心で、シリスは駆け出した。
 下を見ないよう、目的地だけに集中して、ただ、真っ直ぐ前へ。
「おおっ……」
 男が、紅潮した顔に、歓喜と驚きの混じった表情を浮かべる。
 ひたすら全力疾走する吟遊詩人の視界で、男の姿が大きくなってくる。
 永遠とも一瞬とも感じられる時間が過ぎ、やがて、あと少し、というところまで到達したとき、突然、視界が揺らいだ。
 シリスは、思わず立ち止まる。足を踏み外したのかと思うが、足の裏はきちんと細い道についている。
 足場が揺れていた。黄土色の架け橋が、徐々に崩れていく。
「急げ!」
 言われるまでもない。バランスを崩しそうになりながら、渡りきるために再び走り出す。
 地面が不安定に震えているようだった。恐怖や不安、色々な感情を頭から追い出して、最後の数歩は、跳んだ。
 そのまま転がり、崖のふちにかかる手をつかむ。
 途端に、白い光が辺りを包んだ。

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