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2006年1月23日 (月)

古に眠る炎竜#14

 見渡す限りの、荒野。
 黄土色のひび割れた大地を一望する断崖の上で、思わず、吟遊詩人は後ずさる。
 振り返ると、さらに天高くそびえる頂があった。空は夕暮れの薄い紫紺と朝焼けの桃色に近い赤が混じったようで、壮大な一枚の絵にでもなりそうな光景だ。
 黄昏時。それが常に当たり前の時代が、かつてあった。そう、シリスは記憶している。
「リンファ……?」
 見えない相手を呼んでみる。
 しかし、答はない。予想通りではあるが。
 試練は、一人ひとり受けることになるのだろう。そう覚悟を決めて、彼は、天へ突き出た絶壁のほうへと歩き始める。
 黄土色の壁面を撫でると、周囲を見回す。どこかに、下へ向かう道はないかと探してみる。高いところにいるのは、あまり気分がよくなかった。
 一見、下へ向かう道は見えない。ただ、荒野に、シリスがいる場所と同じような黄土色の岩山が、いくつも並んでいるのが見えた。
 シリスは崖を伝い、回り込んでみる。見渡す限りの荒野に、動物の影すら見えない。
 少し歩いて、彼は足を止めた。
 これは、何かの魔法がつくりあげた幻か、夢なのか。
 足もとの小さな土の塊を拾い上げ、潰してみる。確かな官職が手のひらではじけ、パラパラとこぼれ落ちた。
 もしかしたら、セルティストのどこかに実在する場所へ、移動させられたのかもしれない。
 証明のしようがないことを考えるのに切りをつけ、再び歩き出す。
 不意に、声が聞こえたような気がした。
 何も考えず、シリスは駆け出す。この世界に存在する、今のところ唯一の自分以外の意志を持った存在へ。
 少し走ったところで、この黄土色の世界に、本来存在しないであろう色を見つける。

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