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2006年1月18日 (水)

古に眠る炎竜#10

わかっているわ。力を扱うには、制御のための意志力と精神力がいる」
 神が人々に与えた奇跡、魔法。その使い手は、強大な力を得ることになる。
 戦闘中には呪文を唱える間に無防備になることが弱点とされるが、人一人が大勢の人間を、家を、街を――自身の身体よりずっと大きなものを破壊できるだけの力を扱うのだ。
 しかも、シリスとリンファが求めているのは、緋の月の波動を使う攻撃魔法よりずっと強力な、古代魔法だ。
 巨大な力を持つには、それだけの責任がともなう。
「大き過ぎる力は、実演なしでは説得力を持たない。そう簡単に実演するわけにもいかないから、脅しには使えない。かといって、意味なくその辺りの町や森を消し飛ばすような趣味もないわ」
 魔女は先頭を歩きながら、淡々と、論理的に答える。
「古代魔法は、自分の魔力のみを媒体とする。半端な精神では耐えられない。それに、持ち主を厳選するためにこういう場所があるのでしょう?」
「それはそうですね」
 シェイドは小さく笑った。
 彼はわずかに顔を上げると、前方に、明るい長方形を見つける。
「どうやら、どこかの部屋に通じているみたいですね」
「何かの気配がある……それも、複数。魔物かもしれない。気をつけて」
 大して心配していない調子で言って、リンファは、一種の装飾品のような、鎖に吊るしたレイピアを確かめた。
 その後ろで、シェイドもマントの内側から武器を取り出す。
 彼が手にしたのは、中央に空いた穴を横断するように取っ手がついた、金属製の艶のない黒のブーメランだ。刃になった羽には、古代文字が赤く輝いている。
 警戒しながらも、魔術師たちは歩みを緩めない。
 張りつめた空気の中に、黒いもやが浮かぶのが見えた。それは、壁に落ちた影から染み出すように凝り固まっていき、ふたつの、人間に似た形を作る。
「〈エアボミング〉」
 するりとレイピアを抜きながら、リンファが爆風をぶつけた。
 影人間は少し揺らぐものの、強風に吹き飛ばされることも、散ることもない。
「通常の攻撃では効果はなさそうですね」
 息も乱さず走りながら、シェイドはブーメランをかまえる。
 充分に近づいてから、彼は全身を使って黒い刃を投げ放った。通路の中では扱いにくい武器のはずだが、空中で蛇行しながらも、魔力の光を放つそれは、正確に目標へ到達する。
 刃が、影人間の左腕から胸までを切り裂いた。ブーメランはその向こう側で軌道を曲げ、さらに、もう一体の太腿を薙ぐ。
「〈マナグラント〉」
 リンファが手にしたレイピアに魔力を込め、臆することなく影人間たちに駆け寄った。
 影は闇色の手を伸ばして反撃しようとするものの、シェイドが攻撃用の呪文を唱え始めたころには、すでに勝敗は決していた。

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