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2006年1月17日 (火)

古に眠る炎竜#09

 少し驚いたように、カナークは布を取って手の甲を見た。傷は完全に塞がり、乾き始めた血がこびりついているのが、滑稽に見える。
「治療魔法が使えるのか……そういう者がこの遺跡に入るのは初めてだな」
 カナークの傷を治すと、シリスは自分に治癒の魔法を掛ける。
「それじゃあ、他のみんなのほうには治療魔法の使い手がいないのか。怪我をしていないといいけどね……それで、何があったの?」
 血を拭き取り、怪我が痕を残さず消えると、シリスは自分以外でここにいる一人と一体に目を向けた。
 ヘレスがわずかに翼を広げ、ふわりと吟遊詩人の前に降りた。
「急に部屋が光に包まれたと思った途端、見たことのない通路に移動していた。他の皆も、どこか違う場所に移動しているはずだ」
「それじゃあ、魔物がいるかもしれないね」
 手にしたままだった槍を握りなおし、シリスは立ち上がる。
 通路は、移動させられる前までとは少し変わっていた。壁には魔法的な紋様を思わせる装飾が刻まれ、天井には牙のような突起が並んでいる。
 背後は壁だ。先に進むしかない。
「ま、行ってみるしかないか。どこかに、脱出のための仕掛けもあるだろ」
 松明に火をつけ、ヘレスが革の肩当てに留まると、カナークは自ら先頭に立ち、唯一の方角へ歩き始めた。

 石色の、魔よけの模様が刻まれた通路の壁を、二つの影が横切っていく。
 魔法の光が先行すると、影は通路の手前のほうへと長く伸びた。
「今のところ、魔物の気配はないようね。ほかの皆は大丈夫かしら」
「カナークとマユラもいるし、大丈夫だとは思いますが……」
 慎重に周囲を見回しながら、シェイドは魔女のあとを追った。
「せめて、全員同じ階層だといいんですけどね」
 魔物だけでなく、生き物が存在する物音も気配もない。それぞれが、離れた場所に移動させられたのか。
 地表から見える遺跡の規模からして、そう広くはないだろう、と、シェイドは考えた。
「ところで……リンファさん。あなたは、知っていますね? 巨大な力を手にすることの意味を」
 若い考古学者は、唐突に切り出した。
 温和な声に、さりげない口調。ただ、その目の奥には、深い思考を表わすかのような光が瞬く。
 リンファは、振り返りもしない。

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