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2006年1月16日 (月)

古に眠る炎竜#08

 長い通路が、真っ直ぐのびていた。石造の壁と天井に囲まれた広い通路の先には、四角く切り取られた穴と、下へ向かう、金属製のハシゴがある。
 ハシゴの下には、同じような通路が続いていた。
「だいぶ下に潜るんだね」
 少し息苦しさを感じて、セレインが口を開く。だいぶ慣れてきたものの、彼にとっては、何もかもが初体験なのだ。その目には、未知への好奇心と、不安が見える。
「まあ、この階で終わりのはずだ。何も起こらなければ、の話だがね」
 少年の背中を軽く叩いて、デュメル博士が勇気づけるように言った。
 通路は、上と変わりなく続いているようだった。だが、歩くうちに、奥に広い空間が見えてくる。
 シリスとリンファには、その空間の内部の空気は、霧が立ち込めているような、妙な様子に見えた。
 近づくにつれ、徐々に、空間に張りつめた気配が強くなってくる。薄い、形のない魔力が、その空間に満ちている――それが、痛いくらいに感じられて、シリスは一瞬、空間に入るのをためらう。
「大丈夫ですよ。何か害を与えるようなものではありませんから」
 安心させるようなほほ笑みを浮かべてのシェイドのことばを信じて、旅人たちは円形の空間に踏み込んだ。
 空間の中心は円形の段になっていて、天井はドーム状に歪んでいた。壁はなめらかな石色で、飾り気はまったくない。
 肌がちりちりするような魔力を感じながら、勧められるままに、二人の旅人たちは段の上に歩み出る。
 途端に、魔法を使えないカナークたちも、ざわざわと何かがうごめくのを感じた。
 巨大な重いものが、意志を持ったように、一定の方向に集中していく。
 魔法の使い手たちは、それを、色でも見ていた。淡く、蒼白く輝くもやが、床と壁のつなぎ目に吸い込まれていく。
 思わず、シリスは槍を手にし、カナークとマユラも得物に手を伸ばす。
 彼らは、どこか遠くで、地鳴りのような音が響いてくるのを聞いた。 誰かが呼びかける声。
 肩を揺する感触。
 闇の中から引き戻されるなり、シリスは頭のどこかで、記憶がつながっていないことを不思議に思う。つい先ほどまで起きて動いていた、はっきりした感覚があった。
 すぐに、五感が戻ってくる。どこかで打ったのか、手首や膝、額など、身体のあちこちが痛かった。
「大丈夫か?」
 右手の甲に布を巻いたカナークが、ほっとしたように覗き込んでいた。その肩には、ヘレスが留まっている。
「ああ……なんとか」
 額を押さえながら身を起こし、ふと生温い感触に手のひらを見ると、血に濡れていた。
「カナークも怪我を……」
「オレはいいから、あんたのそれを何とかしろよ」
 額から流れ落ちる血が、神秘的な、薄紫の髪を紅に染める。ぼうっとする頭を振って精神を集中し、シリスは呪文を唱え始めた。
「〈ヒーリング〉」
 蒼の月の力を導く神聖魔法でも、もっとも知られた魔法、治癒の魔法。
 シリスがカナークの、布に血がにじむ手の甲へ自らの手をかざすと、優しい光が手の甲を包み、身体の中へ吸い込まれていく。

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