« 古に眠る炎竜#02 | トップページ | 古に眠る炎竜#04 »

2005年12月29日 (木)

古に眠る炎竜#03

「ボムフィスト〉」
 詩人が再び魔法の衝撃波を放つが、傭兵たちは、走る方向を何度も変えながら、標的の左右に迫る。戦闘者としての腕は、決して低いものではないようだ。
 吟遊詩人は焦らず、軽く腰を落とす。右手が、淡い空色のマントの端を握った。
「くらえ!」
 逃げ場を与えぬ、左右からの袈裟切りの一撃。
 傭兵たちを見ないまま、詩人は膝をつき、マントで地面すれすれを払った。丈夫なマントによる足首への衝撃に、傭兵たちはバランスを崩す。
 それでも、体重移動して倒れこみながら、彼らは剣先で標的を追った。
 詩人は、前に出ていた一歩を跳び退きながら、一方の剣を蹴り上げる。その剣先で、もう一方を受け止めるように。
「〈ボムフィスト〉」
 避けられる体勢にない二人の傭兵を、再び吟遊詩人が解放した魔法の衝撃波が、まとめて吹き飛ばした。
 野次馬たちが歓声をあげる。ほぼ同時に警備兵が駆けつけ、すぐに野次馬たちから事情を聞いて、傭兵たちを縛り上げる。
 帰り始めた人々の間から、ほっとした顔で店の陰に目を向ける吟遊詩人と、彼に歩み寄る姿が見えた。竪琴と槍を抱えた、呆れ顔の、女神のような美女。
「ずいぶん気の短い連中もいるみたいね、ここに集まってる連中には」
「ああ。気をつけたほうがいいよ、きみも」
 槍と竪琴を受け取り、背負いながら、吟遊詩人は、地面に座り込んだままの少年に手を差し出した。茫然としていた彼は、ようやく我に返り、手を取って立ち上がる。
「あ、ありがとうございます。助かりました」
 礼儀正しく頭を下げる少年に、吟遊詩人は、優しくほほ笑みかけた。
「どういたしまして……ところで、きみは地元の人かい? デュメル博士の研究所の場所を知っているなら、教えて欲しいんだけど……」
 少年の目が、驚きに見開かれた。
 しかし、彼が答える前に、横から別の声がかかる。
「デュメル博士の研究所なら、知ってるぜ」
 そう言って前に出たのは、カナークだった。
「オレたちは、そこの研究所のモンだ。何なら、案内しようか?」
 突然の申し出に、吟遊詩人は一瞬驚いたものの、やがて、色白な顔に嬉しそうな笑みを浮かべる。
「いいのかい? そうしてくれるなら、助かるな」
「あ、あのっ」
 急に、少年が声を上げる。
 彼は注目されると、少し怯んだものの、勇気を振り絞ったようにことばを続ける。
「ぼくも、デュメル博士に用事があって……でも、受付の人が、事前の約束か紹介状がないと会うことはできないって……」
 すがるような目で見上げる少年に根負けしたように、吟遊詩人が肩をすくめた。
「こっちは紹介状はあるよ。この子も一緒に行っていいかい?」
 三人の、デュメル博士の研究所に所属する者たちは、お互いに顔を見合わせる。
 やがて、シェイドが小さくうなずいた。
「それくらいはかまわないだろう……遺跡調査は後回しだ。わたしたちが研究所に案内しよう」
 マユラは少し残念そうにしたものの、カナークにも異論はない。
「よろしくお願いするよ」
 ほっとしたような少年の肩を軽く叩き、吟遊詩人はほほ笑んだ。

|

« 古に眠る炎竜#02 | トップページ | 古に眠る炎竜#04 »

『古に眠る炎竜』1」カテゴリの記事