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2005年12月28日 (水)

古に眠る炎竜#02

 マユラは歩きながら、良さそうな食堂を眺め始めた。カーマルクでは、搾りたての果汁に冷たいクリームをのせたジュースを出す、風除けを付けたオープンカフェが多い。
 そういった、カフェのひとつだろうか。三人が向かう先に、人垣ができている。
「新しいメニューでもできたのかな?」
 少しだけ期待を込めて、マユラは足を速めた。
 しかし、人込みに近づくにつれて大きくなる闘気と熱気に、三人は間もなく、人込みの正体を知る。
「喧嘩……か」
 この街ではよくあることだ。大抵は、死人が出る前に警備隊が駆けつけるが、たまに間に合わないこともあり、そうだとしても、流れ者のことなど、誰も気にしない。
 野次馬は好きなほうではないが、三人は、人垣の後ろを通り過ぎるついでに、人の姿が邪魔にならない、見通しのいい場所に移動する。
 人垣の内側の光景に、三人は、目を疑った。
 円の中心に、栗色の髪の、一四、五歳くらいの少年がへたり込んでいた。そして、彼を守るように、旅装の吟遊詩人が陣取っている。神秘的な薄紫の長い髪に、ルビーのように鮮やかな赤い目を持つ、特異な、美しい姿の旅人だった。
 シェイド以上に目立つ容姿の吟遊詩人の顔には、少し困ったような表情が浮かんでいる。だが、真っ直ぐ男たち――剣を手にした傭兵三人を見据えながらも、怯んだ様子はない。
 酒が入っているのか、取り囲むように動く傭兵たちの顔は少し赤くなっていた。
「何があったんだ?」
 人垣の隅に、すくみあがった食堂の店員たちや、おもしろそうに手を叩く傭兵たちの姿もある。そういった連中から離れたところに立つ野次馬に、カナークが問うた。
「何だかよくわからないけど……あの男の子が転んでお茶をひっかけたとかいう理由でねえ。詩人さんがあの子を庇って、ケンカの相手をするみたいだよ」
「警備兵はまだかね? 殺されちゃうよ」
 顔見知りらしい野次馬が、口を挟む。
 三人の傭兵たちは剣を手にしている上、吟遊詩人は丸腰である。確かに、まともな喧嘩になるとは思えない。
 しかし、シェイドにはわかる。吟遊詩人に隠された、深い魔力が。
「覚悟はいいか?」
 傭兵の一人が、乾いた地を蹴った。
 惨劇を予想した悲鳴と、はやし立てるようなざわめきが起こる。その間に、詩人は迫り来る相手に向かい、一歩、踏み出した。
 剣の刃が銀光となって、横薙ぎに流れた。詩人は、相手の懐に飛び込むようにして、剣先を逃れる。
 傭兵は剣の柄を一瞬放し、素早く持ち変える。相手の背中に、刃を突きたてるために。
 だが、詩人にとっては、それだけでも、反撃に充分な時間だったらしい。
「〈ボムフィスト〉」
 ある程度の魔法の使い手なら呪文なしでも使える、緋の月の破壊と変革の波動を導く攻撃魔法のなかでも、もっとも下級のものだ。
 それでも、至近距離で発動させれば、かなりの威力を発する。
「ごっ!」
 のどの奥からくぐもったような悲鳴を上げて、傭兵は吹き飛んだ。肋骨の何本かは折れているかもしれない。
「気をつけろ、こいつ、魔法を使うぞ!」
 残りの傭兵の一方が声を上げ、もう一人とともに走る。挟み撃ちにするつもりらしい。

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