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2005年12月27日 (火)

古に眠る炎竜#01

  第一章 遺跡都市の日常

 赤茶けた砂埃を伴う乾いた風が、雑踏を撫でていく。
 道具入りの蔓で編んだカゴを抱え、赤毛を短く刈り込んだ長身の女が、行き交う人々の間を縫うようにして、早足で歩いていく。彼女の行く手には、露店に囲まれるようにして、小さな公園が広がっていた。
 ある木の根元に、剣を腰に吊るした体格のいい青年の姿を見つけ、声を上げる。
「あれ、シェイドはまだ来てないのかい?」
「ああ、そろそろ来るはずだけどな。アルガスの店が休みだったんで、紙を捜すのに手間取ってるんじゃないか。……それよりマユラ、今日は休みのはずだろ?」
 青年が不思議そうに問うと、マユラは笑みを浮かべ、彼のとなりに腰を下ろす。
「なーに言ってんだい。あたいだって、あの遺跡の中身が気になるんだよ」
 待ちきれないように、カゴの中の発掘用の道具に視線を落とす。
 ここ、パンジーヒア王国南部の都市カーマルク周辺は、未だ、超魔法文明時代の遺跡の発見が続いていた。遺跡都市、考古学都市、という異名を持って呼ばれるのも、そういった事情からだ。
 遺跡と出土品をめぐり、考古学者や探険家、腕に覚えのある傭兵などが、入れ替わり立ち替わり訪れる都市でもある。犯罪者や、いわくつきの物が問題を起こすことも多い。
「カナーク、マユラ」
 不意に背後から声をかけられ、名を呼ばれた二人はそれぞれの武器を探りながら振り返った。
 突然現われた気配が、木の陰から歩み出る。予想はしていたものの、未知への警戒心がしみついた二人は、ほっと表情をほころばせる。
「シェイド。遅かったな」
 二人は立ち上がって、同僚を迎えた。
 黒いマントとローブに、顔を隠すためのローブ。一見して魔術師とわかる青年は、周囲を素早く見回すと、フードを取って息を吐く。長い、金属のように青く輝く髪が背中に流れ、北方大陸製の眼鏡をかけた端正な顔が、外気にさらされる。
「しつこく追求してくる荒くれ者がいてね……撒くのに手間取ったよ」
「シェイドは目立つからな。ヘレスは置いてきたのか?」
「それこそ、目立ち過ぎる。二人と一緒の時はマシかもしれないが、ヘレスは黙ってマントの下に隠れていられない性分だからな」
 シェイドは苦笑すると、マントの下から、店を回って手に入れてきた道具を取り出す。
「古代文字でもあればヘレスの力も必要になるだろうが、今日は様子見さ。早めに行って、博士に報告しよう」
 二人と一緒なら安全だと判断して、フードを脱いだまま、彼は歩き出す。その左右を、カナークとマユラが固めた。
 カーマルクの街並みは雑然としていて、様々な種類の店が、規則性無く並んでいる。冒険者相手の露店商も多く、広い通りの左右は、布に商品を並べただけの店で埋まっていた。中には盗まれた発掘品と思われるものがあり、たびたび警備隊に摘発されている。
 街の東に入ると、露店は少なくなっていき、食べ物屋が増えていく。
「そういや、何か買って行くかい? 弁当でも作って来ればよかったんだけど、暇がなくって」
 弁当屋の看板を見て、マユラが提案した。彼女の料理の腕を知る男性陣は、内心ほっとする。
「まあ……昼までには終わるんじゃないか? 帰ってきたら、一緒にメシでも食いに行こうぜ」
「そうだな……丁度いい時間になるだろう」
 カナークのことばに、急に通行人が減ったのを気にしながら、シェイドが同意する。

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