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2005年10月26日 (水)

セルフォンの赤い悪夢#14

 王国兵は、屋敷の西部分に宿泊しているらしかった。西には馬小屋があり、廊下の窓からは、王国軍の馬と、その身体を洗っている世話役の姿が見える。
 視線を戻し、シリスは、執事の後ろ姿を、そしてその向こうにあるドアを見た。
「この奥が、エンデーヌ将軍の臨時執務室になっております。どうぞ、お入りください」
 ドアの横に立ち、取っ手を回して引き開ける。執事からは部屋の中は見えず、部屋の内部の人間からも、彼の姿は見えない。
 必要以上に姿を知られたくないのか、と思いながら、机と椅子だけの質素な部屋に入る旅人二人を、しかし、エンデーヌは意外に陽気な調子で迎えた。
「やあ、よくいらっしゃった。わたしが遺跡の安全管理の責任者、イルヘム・エンデーヌだ」
 茶色の髪に顎鬚を生やした体格のいい青年は、紺のローブに茶色のマントを羽織っただけの軽装だった。椅子に座り、ドアを背にした将軍は、武器のひとつも身につけていない。
 だが、その理由は、一見してわかっていた。部屋の中で一番目を引く存在――黒いフード付マントを頭からすっぽり被った、魔術師らしい姿が、将軍のかたわらに控えている。
 フードからのぞく口もとは白く、唇や顎の形は整っている。頬にかかる細やかな金細工のような髪は、黒一色の中にあって、淡く輝いていた。
「わたしはリンファ、こちらはシリス。遺跡発見の報を聞きつけて、後学のためにも是非見学したいと思い、参った旅人です」
 シリスに比べ堅苦しい会話も得意とするリンファが、ためらいなく口を開いた。彼女の外見は、交渉の場でも高い威力を発揮する。特に、相手が男性の場合は。
「それはそれは、感心ですな。ただ、今夜、我々は魔物たちの残りを一掃するつもりです。その準備のために、今日は夕刻にはなかを閉鎖する予定なのです。明日には、中もご覧になれるとは思うが」
 説明して、将軍は魔術師を一瞥した。黒衣の魔術師は、淡い金色の目を、まばたきもせずに訪問者たちに向けている。
「明日ですか……夕刻には、村を発つつもりなのですが」
 黒尽くめの視線を気にしないことにして、リンファは意味ありげにそう応じた。本当に今夜で魔物を片付けられるのか、という問いかけだ。
 一瞬だけ痛いところを衝かれた、という表情を浮かべ、将軍は苦笑する。
「わたしが保証しよう。もし、今夜で決着をつけられなかったら……そうだな。お詫びに、わたしが予備に持っている、特製の剣をプレゼントすることにしましょう」
「ずいぶん自信がおありのようですね」
 リンファが内心ほくそ笑みながら言うと、将軍は再び魔術師の男に目を向け、全身で答えるかのように自信に満ちた様子で笑った。
「ええ、必ずや、我々の奥の手で魔物どもを一掃してみせましょう。……今日は、遺跡の外観をご覧になられたらどうでですか? それくらいなら、魔物の掃討を待つこともない。必要なら、部下を案内にやりますが」
 エンデーヌ将軍の申し出を丁寧に断って、二人は部屋を出る。背中に突き刺さるような視線を感じながら。
 ドアが閉まり、ほっと息を吐く二人を不思議そうな顔で迎えた。
 旅人たちがロビーでことの顛末を簡単に説明すると、ローグたちは遺跡への案内役を買って出た。それを半ば予想していたシリスとリンファは、彼らとともに、村の西に出る。
 西には、山並みの端まで、緑の木々が広がっていた。村の周辺からは見ることはできないが、森のあちこちに、エルフの集落があるはずである。
 遺跡が発見されたのは、森と村の間にある丘の下だという。
「木こりのおじさんが、少し遠出したときに偶然発見したんだ。王国兵は、超魔法文明時代の遺跡だって言うけど」
 先頭に立って遺跡の前まで辿り着くと、少年剣士は、自分が知っているすべての情報を説明した。
 丘の土のなかから、文字や蔓のような絵が刻まれた、石造りの壁面が顔を出していた。その、なだらかな坂になった壁の中央に、長方形の入口が開き、その左右で、王国兵が目を光らせている。
「確かに、超魔法文明時代の魔法語が刻まれているようね」
 リンファが遺跡に一歩近づき、壁面の文字を読む。
 一二〇〇年前、大天神ルテらと邪神セイリスらの戦い、後に消魔大戦と呼ばれる戦いがあるまで、セルティスト界には、高度な魔法文明が存在したという。ナーサラ大陸にある遺跡の大半は、超魔法文明時代のものだ。
「凄い。なに書いてるか、わかるの?」
 カナディアが、目を輝かせて女魔術師を見上げる。
 少女の視線を、まんざらでもない様子で受け止めながら、美女は壁面に書いてある文字を読み上げる。
「我ら闇を払う、命を守る……ここに住まいしは神のしもべなり……防御系の魔方陣を構成する呪文に多い文句ね。たぶん、住処を守るために刻まれたのだと思うの」
「昔の住居、でしょうか?」
 セリオが少し興味を引かれたように、身を乗り出す。
「なかに入ってみないとわからないけど、誰かが、それも複数の人間が住んでいたのは確かね……人間、とは限らないけど」
 エルフに目をやって、リンファは付け加える。

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