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2005年10月25日 (火)

セルフォンの赤い悪夢#13

「村の案内なら、まっかせて!」
 待ってましたとばかりに、小妖精が飛び出した。南方大陸でも珍しい小さな姿に、吟遊詩人は目を見開く。
「この村は、個性的な自警団に守られているのね」
 美女がハーブティーを傾ける手を止め、ほほ笑む。
 ローグが慌ててフェアリーを追いかけ、右手で小さな身体を捕まえた。
「ナセリー、屋敷の場所は見りゃわかるんだから、案内なんていらないだろ」
「何よ、ローグだって乗り気のクセに」
「案内するにしても、シャードが決めることだろ」
 言って、少年が振り返ると、淡い茶色の髪の青年は、立ち上がって歩み寄ろうとしているところだった。
「わたしは、ラウリ候レイモンドの息子、シャード・ルクセラ・カイゼルです。王国兵は屋敷に滞在しているので、遺跡を見学なさりたいなら、エンデーヌ将軍のもとにご案内しましょう」
 慣れた調子で、自警団のまとめ役でもある彼が言うと、楽しそうにローグとナセリーの言い合いを見ていた詩人は、立ち上がってシャードを迎えた。
「それじゃ、案内はよろしく頼むよ。自警団の皆さん」
 彼がそう告げると、テーブルに残ったままで話を聞いていた少女たちも、嬉しそうに笑顔を見せる。
 旅人二人が食事を済ませる間に、彼らと自警団は、簡単な自己紹介を済ませ、吟遊詩人はシリス、美しい女魔術師はリンファ、と名のった。
「あと、セリオってのがいるんだけど……まあ、屋敷に行くまでに教会があるから、途中で寄ってみよう」
「教会って、ジェッカの?」
 店を出て歩き出したところで、リンファがローグのことばを聞きとがめる。
「そうだよ。エルフに一番関係が深い神さまだからな」
 ジェッカは、自然と平静、医療を司る神である。病院を運営していることが多く、その神殿は、人々に一番馴染みが深い。
 木造の住宅が並ぶ、草を刈っただけの小さな通りを歩いて間もなく、村の端に、緑の紋章を掲げた小さな教会が見えてくる。白い石造りの教会からは、丁度、金髪緑眼の神官服が出てきたところだった。
 長身痩躯に、整った顔立ち、長い金髪からのぞく、先のとがった耳。一見して、エルフだとわかる。
「セリオ! 丁度良かったわ」
 呼び止められて目を丸くすると、彼は次に目を細め、一行の中にある見知らぬ姿を、その奥にあるものを推し計るかのように、じっくりと眺めた。
「……珍しいですね。旅の方ですか?」
「そうだよ。こっちの吟遊詩人がシリスで、そっちの美人さんがリンファ」
 と、紹介したのは、旅人たち本人ではなく、彼らの頭上を飛び回ったあげく、エルフの僧侶の肩に腰かけたナセリーだった。
 肩を振り返ってほほ笑むと、セリオはシリスとリンファに向き直り、
「ぼくは、セリオス・ミリコットといいます。近くのエルフの森出身ですが、この村の教会でジェッカさまに仕える僧侶の端くれ、とでも言いましょうか」
「よろしく、セリオ」
 礼儀正しく自己紹介するところへ、シリスが手を差し出した。セリオは一度戸惑ったように相手の革のグローブに覆われた手を見下ろしてから、手を握る。
 長年付き合っているローグやサンディアからは、セリオがいつになく警戒しているのがわかった。決して人見知りするほうではないし、むしろ、誰とでも気軽に話すエルフの僧侶だ。それも、相手は、やはり人懐っこい雰囲気を持つ吟遊詩人である。
 何か、警戒すべき理由があるのかと、ローグはシリスを見た。吟遊詩人のほうは何の警戒も怪しい動作もなく、結局、少年にはセリオの警戒の理由はわからない。
「これから、シャードの屋敷に行くの。セリオも来るでしょう?」
 クッキーの残りを手渡しながら、カナディアが灰色の目を向ける。
 少しぼんやりしていたエルフの僧侶は、慌ててうなずいた。
「ええ、もちろん。ぼくもご一緒させていただきますよ。今なら、王国兵もみんな屋敷にいるみたいですし」
「エンデーヌ将軍や部下の魔術師も、治療を受けた負傷者たちと一緒に、屋敷に戻ったみたいだな」
 シャードがそう確認すると、先頭に立って、再び歩き始める。
 小さな村なので、村人全員が知り合いのようなものだ。畑をいじっている男や、共同使用の井戸に水汲みに出て来た婦人などと声を掛け合い、自警団志望の小さな子どもたちが駆け回る先を横切りながら、迷わずある方向をめざす。
 領主の屋敷は、村の北の、丘の上にあった。村のどこからでも見ることができる、ローグが言った通りに見ればわかる場所にある屋敷だ。
 屋敷の両開きの扉まで辿り着くと、当然ながら慣れた様子で、シャードがノッカーを鳴らす。
 間もなく扉が開かれ、白髪を後ろに撫で付けた、スラリと痩せた体躯の老人が顔をのぞかせる。
「こんにちは、ラーソンさん」
 ローグたちが声をかけると、愛嬌のある目を丸くして、執事は玄関前に並ぶ顔ぶれを眺める。
「これはこれは、坊ちゃんとお友だち、それに……そちらのお二人はどちらさまです?」
 シャードはあまり、坊ちゃん、と呼ばれるのを気に入っていないのか、顔に仕方なさそうな苦笑いを浮かべて応じた。
「ああ、旅の方たちがエンデーヌ将軍にお会いしたいとおっしゃるので、ご案内したんだ。将軍に知らせてくれるかい?」
「はい、ただいま」
 姿勢を正して答えると、執事は素早く奥に消え、入れ替わりに、若いメイドが一行をロビーのテーブルに案内した。
 メイドの入れたハーブティーとラーソン作のクッキーで時間を潰し始めて間もなく、再び執事が現われ、シリスとリンファを呼び出す。
「オレたちは留守番か」
 ローグが、少し残念そうに肩をすくめた。彼はまだ、一度もエンデーヌの顔を見たことがないのだ。
「食べられないように気をつけてねー」
 クッキーにかじりつきながらのフェアリーのことばに、執事とリンファに続いて歩き始めていた吟遊詩人は振り返り、苦笑した。
「ああ、頑張ってくるよ」

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