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2005年10月17日 (月)

セルフォンの赤い悪夢#06

「ふうっ!」
 何か、格闘術の心得があるのか。グナッデンは身がまえると、鋭く息を吐いて跳躍した。一見痩せ型に見える身体は、それなりに鍛えられているらしい。
 リンファの前に出ると、シリスは両手に槍をかまえ、地面を踏みしめる。
 今の体調では、まともにぶつかれば受け止めきれない。相手が一撃を放つ前に、リーチの長さを活かして、先に打ち落とすしかない。
 じっと相手の動きを見据え、できるだけ引き付けて、みぞおちに石突きを叩き込む。
 だが、突き出した槍の柄の先に彼が感じたのは、予想より固い感触だった。
 グナッデンの左手が、胸の中央の前で石突きを受け止めていた。指の何本かは折れているだろうが、男は意に介さず、体重をかけた右手の一撃を打ち込もうとする。確実に相手を倒し、逃走路をつくるために。
 上から体重をかけられると身動きが取れなくなるので、シリスは槍を手放し、グナッデンの着地点から、半歩横に移動した。男の右手は、それを追うように伸びて来る。
「はっ」
 腰を落として突き出された手をかわし、地面に着いたばかりの足もとに、足払いをかける。バランスを崩し、身体の制御を失ったグナッデンの腕を取ると、素早く後ろから体重をかけ、地面に押し付けた。
 警備隊員たちに劣らぬ拘束術に感心しながら、ルルグたちがロープを持って駆けつける。
「くそっ……」
 パーレル・グナッデンは悪態をつきながらも、もはやこれまでと、観念したらしい。
「お疲れさま」
 肩で息をしているシリスをグナッデンから引き離し、魔女は肩を貸した。
 二人の目の前で、警備隊は手際よく、男を丈夫なロープで縛り上げていく。自由を奪われた男は、鋭い目で地面をにらんでいる。
「お前も、最近夜に起きている事件を知っているだろう。錬金術師カナルの研究が関係しているというが、お前も、わかっていたようだな」
「そろそろ来ると思ってたよ」
 ルルグの問いに、男は吐き捨てるように言った。どうやら、二人は以前も顔を合わせたことがあるらしい。
「でも、オレが売ったのは一体だけだぜ。後の二体は知らねえ。他に売られた一体が逃げ出したっていう噂を聞いたから、それがカナルを捜して戻って来たんだろ」
「売ったって……何を?」
 ようやく呼吸を整え、シリスが、周囲の者たちが一番ききたいことを口にする。
 グナッデンは、大きく息をついた。
「どこかのお偉いさんがカナルに依頼して創らせた、戦闘用の獣さ。闇市で噂を聞きつけて手を出したはいいが、同じ馬車にいるだけでも、気が気じゃなかったぜ……檻の中にいるのに、今にも殺されそうなくらいの殺気を感じたからな」
「その獣には、姿を消す能力はあるの?」
 美女がのぞき込むと、彼は少し驚いたように目を見開く。
「あ、ああ……何せ、戦いに役立つような能力は、かたっぱしから付け加えたそうだからな。あちこちから魔物を捉えて、それを合成していったんだそうだ」
 そこまで語り終えると、彼は黙って話を聞いていたルルグを見上げ、
「なあ、ここまで話したんだ。こっちだって、処分を押し付けられたようなもんだぜ。勘弁してくれよ、おっさん」
「関係者の犯人逮捕にも協力するというなら、ある程度考えてやってもいいな」
 哀れを装った声を上げるのに、ベテラン警備隊員は、仕方なさそうに肩をすくめた。
「その前に、肝心のことを教えてもらわなければならんな。……獣をおびき出すには、どうすればいい?」
「あいつらは、血が好きなのさ。夜に豚の内臓でもぶちまけておけば、寄って来るんじゃねえか?」
 心を見透かすような目に、グナッデンは首をすくめて答えた。

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